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三姉妹が選んだ地は、潮が激しくぶつかり合い、時に暴れ海と恐れられる玄界灘を望む、宗像の地であった。
実際に目にする海原は、天から見下ろす景色とは違っていた。
目の前に広がる大海は、その日によって表情を変える。
水面の色の青さも、天気や時間帯によって違った。
三姉妹は潮風を感じ、潮の香りを嗅ぎ、波の音を聞いた。
濃い霧で視界の効かぬ海上を見ながら、多紀理毘売が言った。
「海原を旅する者にとって、視界を遮る霧は危険でありましょう。ワタクシは霧について観察し、操る術を学びましょう」
二人の妹は美しい瞳を多紀理に向けて、頷いた。
潮が激しくぶつかり合う海面を思い描き、多岐都比売が言った。
「海原を旅する者にとって、潮の流れも危険でありましょう。ワタクシは潮の流れについて観察し、操る術を学びましょう」
三姉妹の中でも特に美しく、後に弁天様と慕われる市寸島比売は、小首を傾げて考えていた。
ほどなく、市寸島は、海面に浮かぶ小島を指差して言った。
「ワタクシは海原を旅する者が、身を寄せて危険をさけるための、入江を整えようと思います」
三姉妹は分担を決め、近い将来に担うであろう大役に向けて、心を新たにした。
高天原で学んだ知識を元に、実際に役立つ神技を磨く。試行錯誤の日々の始まりである。
頼る者のいない地だったが、現地に赴き、日々研鑽し励むことは、それぞれの気持ちを高揚させた。
自然を意のままに操る神技の習得は、天照大御神や須佐之男命のように、生まれながらにして神格の高い神々ならば、いざしらず、姉妹にとっては容易いことではなかった。
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