40人が本棚に入れています
本棚に追加
多紀理毘売命は大国主命の子を宿した。
月満ちて、男御子を産んだ。
我が子がこれほど愛しいとは、思いもよらなかった。
どれほど眺めていても、見飽きるということがない。
母になった多紀理だけでなく、妹たちも赤子に夢中だった。
市寸島比売命と多岐都比売命にとって、初めての甥っ子だ。
修練が終わると急いで家に戻り、赤子を愛しそうに見つめ、妙な表情を作ってあやした。
赤子は不思議そうに、顔をじっと見つめるだけだったので、耐え切れずに吹き出してしまうのは、寄り目にしたり口を尖らせたりする叔母の方だった。
大国主命が宗像へ妻と子を迎えに来た。
御子は夫の神殿で暮らすと決められていた。
大国主命は以前にも増して見目麗しく、御子を抱く姿は、さながら絵画のようだ。
多紀理は夫と御子との暮らしに胸が膨らむ一方で、妹たちの寂しげな表情を見ると、いたたまれない気持ちになった。
妹らは「最後にもう一度」と、繰り返し赤子を抱き、頬ずりしている。
やっとの思いで、別れを告げた。
「ワタクシはすぐに宗像へ戻ります。それまで海原の守護神になるべく、研鑽を重ねてください」
大国主命も「出雲へ遊びにおいでなさい」と、涙ぐむ妹を慰めた。
最初のコメントを投稿しよう!