ネズ乃の憂鬱

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 ネズ乃には、情報交換をする鼠仲間が各地にいた。    先日、情報収集に町へ出向いた際、井戸端でお喋りに興じるカミさん連中の話の中で、須勢理毘売(スセリビメ)の名を耳にした。 「大国主命の正妻は、とにかく嫉妬深いんだってねぇ」 「聞いたよ。新しい側室をたくさん追い出したそうじゃないか」 「正妻ってのは、八俣(やまた)大蛇(おろち)退治の須佐之男命の娘だってさ。くわばら、くわばら」  声を潜めたり、肩をすくめたりしながら、面白可笑しく話を広めていた。  面白半分に伝わる噂について、鼠仲間に問い正した。  問われた鼠は意外そうな表情で言った。 「嫉妬深い正妻が、他国から嫁いできた気の毒な側室を、いびり出してるんじゃないのかい」 「いびり出しているのは、このネズ乃様なんだよ」と、今さら真実を告げたところで、噂を修正できるはずもない。  正妻が嫉妬して美しい側室をいびり出す構図は、最も辻褄が合う。  ネズ乃の懸念は、各地を巡る大国主命の耳に届いているが、どうかであった。
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