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当初の計画よりも時間が掛かってしまった。
ネズ乃は大国主命の元へ急いだ。
沐浴を終えた大国主命が、どこぞの側室の元へ行かないで、居室でくつろいでますように!
ネズ乃の念が通じたのか、大国主は自身の居室にいた。
濡れ縁に置かれた籐椅子に座り、須勢理と同様に地底湖を模して造った池を眺めていた。
暗闇が迫るこの時間帯の方が、日中よりは趣があるようだ。
「おくつろぎのところ、失礼するよ」とネズ乃は声を掛けた。
大国主命は、どこから声がしたのかと周りを見回し、足元で半立ちになっているネズ乃を見つけた。
「須勢理毘売のネズ乃ではないか。いかがした」
涼し気な瞳をネズ乃に向け、歓迎しているぞとばかりに微笑みかけた。
この色男ぶりは、生まれついてのものなんだろうよ。女人がほっとかないはずだねぇ。
女心を魅了する、何気ない振る舞いや仕草に、あらためて感心した。
促されるままに、ネズ乃は例の噂の原因が自分にあることを白状した。
「ヒメは大国主命が全てなんだ。大国主命を想って、恋の歌を毎日詠んでいるよ」
少々、脚色をしているが、このくらいは許されるだろう。
「ヒメの寝台横の飾り棚だよ。その引き出しを開けて、ヒメの想いを確認しておくれよ」
大国主命に念を押した。
その晩、須勢理毘の居室を訪れた大国主命は、須勢理と朝を迎えた。
柔らかな絹の床の中で、淡雪のようなヒメの胸がどうなったかまでは、ネズ乃は詮索しなかった。
須勢理の元を再び訪れるようになった頃、大国主命は近隣諸国の併合を終了した。
国の体制作りに取り組み始めた。
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