国造りの手伝い

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国造りの手伝い

 体が小さいから、一寸法師と呼ばれた。  物語の一寸法師は見聞を広げるために家を出た。お椀に乗り、川を下って都へ行く。  天地開闢(てんちかいびゃく)期の造化三神(ぞうかさんしん)の一神である神産巣日神(カミムスビノカミ)には、息子がいる。  名は少名毘古那神(スクナビコナノカミ)、とても小さい神だった。    この少名毘古那が御伽草子(おとぎぞうし)「一寸法師」のモデルとなった神だ。  少名毘古那の冒険談が形を変えて、後の世に伝えられている。  天照大御神が神産巣日神(カミムスビノカミ)の屋敷を訪れた。  わざわざ足を運んだということは、公式の用事ではない。  公式であれば、神産巣日(カミムスビ)が高天原神殿に呼ばれる。  神産巣日は天照大御神を客間に通し、侍女らを下がらせた。 「地上で進行中の国造りに、手を貸そうと思う」  まるで世間話のように、天照大御神は切り出した。 「神産巣日神ならば、どの神が適しているとお思いか」  (くらい)でいえば、天照大御神が上であるが、神歴でいえば、神産巣日が長い。  天照大御神は年長者の知恵や経験を尊ぶ。    天照大御神を、幼い頃から見ている。  大国主に手を貸そうとお考えならば・・・・・。 「地上の統治も、なさいますか」  天照大御神は神産巣日に鋭い視線を送った。 「お見通しというわけか。今はソナタの胸にしまっていてほしい」 「心得ております」  神産巣日は軽く頭を下げた。 「後ほど、適した神を神殿へ行かせましょう」  天照大御神は長居をせずに、用件が済むと神殿へ戻った。  この世は、天照大御神の両親と兄弟によって、分割統治されている。    天上の高天原は天照大御神が、夜の食国(おすくに)は弟・月読命(ツクヨミノミコト)が、海原は弟・須佐之男命が、地上は父・伊邪那岐命(イザナギノミコト)が、そして地の底の黄泉の国は亡き母・伊邪那美命(イザナミノミコト)が統治する。  実際は、須佐之男命は海原の統治を放棄し、地下の根の堅洲国で暮らす。  地上を統治する伊邪那岐命も、何もしていない。  最近になって、須佐之男命の娘を正妻に迎えた(くに)つ神の大国主命が、地上を統一しようと試みていることがわかった。  使命感の強い天照大御神は納得いかないはずだ。  父が統治しないのなら、娘である天照大御神が責任をもって統治するべきだ。と考えているのだろう。    大国主が天照大御神の直系ならば、あるいは、任せたかもしれない。  弟・須佐之男に繋がる大国主を、信頼できないのだろう。  多紀理毘売命(タキリビメノミコト)に関する密告がきっかけになった。  天照大御神は大国主の存在を知り、地上に関心を向けた。    大国主を手伝うというのは、下工作だ。  国造りを主導して、天上界による統治権の正当性を主張するのだろう。    神産巣日は息子の少名毘古那(スクナビコナ)を、部屋に呼んだ。  小さな体には、あらゆる知識が詰まっている。  想像性に富み、誰よりも知恵の回る神だ。  背丈が足りないからなのか、存在感が薄かった。  類い稀なる知恵を生かす場にも、恵まれなかった。  ようやく、生まれ持った神の力を発揮できる。 「天照大御神が、地上に派遣する神を探している。大国主の国造りを手伝う神だ」  小柄な息子は、母を見上げて瞳を輝かせた。 「ワレは、ソナタを推薦しようぞ」  少名毘古那は満面の笑みを浮かべた。 「必ずや、お役目を果たしてご覧に入れます」  
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