国造りの手伝い

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 (あま)つ神といえども、高天原を勝手に出ることは許されない。  世の秩序を乱さぬよう、禁じられていた。  天照大御神の使命を受けた神だけが、地上なり海上なりに降れる。  少名毘古那(スクナビコナ)は、異なる世界を見聞したいと望んでいた。  その日のために、勉学は怠りない。  長年の夢がようやく叶う。  体格に恵まれない少名毘古那は、同年齢の神に比べて存在感が薄かった。  知恵と知識で抜きんでようと、幼少より学問の習得に(いそ)しんだ。  世の成り立ちをはじめ、個々の神々が秘する神技・まじない方法。医に関する薬草の効用から対処療法、農に関する穀物成長の仕組みから害虫対策など、あらゆる分野において貪欲に学んだ。  学問所の書庫で、勉学時間を共有した三姉妹がいた。  後の宗像三女神(むなかたさんにょしん)だ。  彼女らは、常に物静かであった。隅の一画で、頭を寄せ合うように書物を覗き込む姿が印象に残っている。    書庫利用者が、少名毘古那と三姉妹だけであることも珍しくはなかった。  自然、会釈から言葉を交わす間柄へなった。  三神三様の美しさを持つ姉妹と肩を並べて学ぶことは、少名毘古那の励みであり、楽しみでもあった。   「天照大御神の(めい)を受け、海原へ降ります」  と、三姉妹から告げられた時は、体の力が抜けた。  寂しさもあるが、異なる世界に旅立つ三姉妹を羨ましく思った。  先を越されてしまった。  「きっと訪ねてください。再会できる日を楽しみにしています」  三姉妹は別れを惜しんでくれた。  地上へ降りたら、まずは三姉妹を訪ねるつもりだ。  それから大国主命の元へ行こう。  三姉妹との再会は楽しみだし、出雲や大国主命についての情報も得たかった。    
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