鬼のパンツはエロいパンツ

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 夫の威さんとは、私が18歳のとき通っていた自動車教習所で出会った。  鬼島(おにじま) (たける)、身長190センチ、体重80キロという立派な体躯を持った彼は、教習所に通う生徒たちから当然のように「鬼教官」と呼ばれ恐れられていた。  最初は私も他の生徒たちと同じように、威さんのことを遠巻きに見ては「怖そうだね」なんて友達と囁き合っていた。彼は愛想が良いわけでもなければ口数が多い方でもなく、こちらから挨拶をしてもにこりともせず短い返事をするだけ。フレンドリーという言葉とは程遠い存在だった。  いつだったか、教習所内で騒いでいた男の子たちを怖い顔で怒鳴りつけているのを見たこともある。それに、教習中に少しでもミスをすれば憤怒の形相で叱られ、その姿はまさに鬼のようだと誰もが噂していた。  そんな彼の印象ががらりと変わったのは、初めて二人きりでドライブをした日──じゃなかった、彼の指導を初めて受けた日のことだった。 『お、鬼島先生、よろしくお願いしますっ』 『ああ、よろしく。じゃあとりあえずコース内を走ってみてくれ。安全運転で』 『は、はいっ』  鬼島先生に怒られないようにしないと──。緊張のあまりガチガチになりながら慎重に車を走らせていた私は、前方の赤信号を見て思わず急ブレーキを踏んでしまった。  がくん、と僅かに揺れる車内で、鬼島先生が「おっと」と声を上げる。 『すっ、すみません! わ、わたしっ、ブレーキが下手くそで……!』  怒られる!  冷や汗を流しながら慌てる私に、鬼島先生は意外にも優しい声音で言った。 『そんなに焦らなくていい。急ブレーキは良くないが、君はちゃんと信号を見てたし、バックも確認してただろう。もっと肩の力を抜け』  びっくりして思わず助手席に座る彼の横顔を見つめると、「よそ見するな」とぴしゃりと言われてしまう。慌ててハンドルを握り直して、青信号に変わった道の先を走り出す。 『お、鬼島先生、もっと怒らないんですか……?』 『……俺をなんだと思ってるんだ。誰彼かまわず怒鳴り散らすような男じゃないぞ』 『すっ、すみません! でもあの、噂でよく聞くから……』 『そりゃあ、少しでも危ない運転をしてたら怒るさ。命に関わるからな。鬼教官だ何だと呼ばれてるのも知ってるが、俺の指導で少しでも運転に気をつけてくれるようになればそれでいい』  穏やかなその声を聞いて、どういうわけか私の胸は大きく鼓動した。ミラーを見なくとも、これでもかというほど顔が赤くなっているのを感じる。 『かっこいい……』 『ん? 何か言ったか』  ぽろりとこぼれ落ちた本音を隠すように、慌てて首を振る。  これが、私の恋の始まりだった。
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