王太子殿下 3

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王太子殿下 3

 二人で上階にいくと、王太子殿下とはちがう華やかさを誇る女性が待ち構えていた。  ソフィア・ティーカネン。わたしの幼馴染。ティーカネン侯爵家の一人娘である。  そして、わたしの婚約者であったガブリエル・ラムサのあたらしい婚約者である。  そう。わたしたち三人は、近隣どうしで年齢も近いため、幼いころからともにすごした幼馴染なのである。  わたしだけが彼女たちより二歳年下なので、妹みたいな感じだったのかもしれない。  ソフィアは、わたしとはまったくちがう。同じ国の同じ女性、爵位はちがうけどおなじ貴族令嬢とは思えないほど、まったくちがう。  社交的で活動的で積極的。しかも、絶世の美女。スタイルも抜群。  王太子殿下が女性の憧れの象徴であるのにたいし、彼女は貴族子息たちの憧れの象徴なのである。  ただ、彼女には難点が一つある。  気が多いということである。男性にたいして、という意味である。  わたしの元婚約者もだけど、わたしの幼馴染たちは、異性との交流が盛んすぎる。 「王太子殿下、ご挨拶申し上げます」  ドレスも彼女自身もキラキラ光りつつ、彼女はまず王太子殿下に挨拶をした。 「ソフィア、あいかわらずだね」 「あいかわらず?ああ、美しさがということでしょうか?」 「まあ、ね」  ソフィアは、クスクスと笑っている。 「王太子殿下もあいかわらずですね」 「まあ、ね」  彼女はわたしの前に立つと腰に手をあて、居丈高に言った。 「アリサ。あなた、婚約を破棄されたんですってね」 「なんだって?」  なぜか王太子殿下が、驚きの叫び声をあげた。 「そうなのです。ガブリエル・ラムサ公爵子息にです。来週の舞踏会で公にするらしいですわ。どうやらそのあとにあたらしい婚約者のお披露目もするとか。ちなみに、それはわたしなのですけどね」 「なんだって?」  王太子殿下がまた叫び声をあげた。 「アリサ、いいこと?いつもみたいに公の場に出るのを避けてはだめよ。あなたが主役なんだから、ちゃんと出席しなくっちゃ」  そして、恥をかくのね。  それ以前に、王宮の舞踏会に着用できるようなドレスを持っていない。  顔の火傷の跡のことで社交界から遠ざかってはいたけれども、両親が亡くなってからはよりいっそう避けるようにしている。  後見人である叔父夫婦に屋敷も資産もいいようにされていて、日々の衣服ですら困っているくらいである。 「ドレスのことなら心配しなくってもいいわ。わたしの屋敷にきなさい。メイドたちに言いつけておくから、身支度をしてもらえばいいから。あなたには、しっかりと見届けてもらわなくっちゃ。あなたの元婚約者のあたらしい婚約者の晴れ姿をね。いまから楽しみでならないわ」  うつむいたままでいるわたしに、彼女は一方的に告げた。 「殿下、殿下もいらっしゃいますわよね?」 「え?あ、ああ舞踏会に?いや、わたしもああいう場は苦手でね」 「だめですわ。殿下、多くの貴族が集まるのです。国王陛下もご出席なさるそうですし」 「あ、ああ、そうきいてはいるが……」 「いけない。そろそろ約束の時間だわ。王太子殿下、ご一緒にいかがですか?サロンでお茶の会があるのですよ」 「いや、それはやめておこう」 「一度くらいいいではないですか。じゃあ、アリサ。当日はかならず屋敷によるのよ。殿下、まいりますわよ」 「え、ええっ?」  なんてこと。ソフィアは王太子殿下の腕に自分のそれを絡めると、ひきずるようにしてあるきはじめた。 「アリサ、また寄らせてもらうから」 「王太子殿下、お待ちしております」  王太子殿下の背に、頭を下げて見送った。
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