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てっていてきにざまぁを 4
「アリサ、きいてほしい。わたしは、きみのことがずっと好きだ。昔、はじめて出会ったあの日、わたしはきみに一目惚れしてしまった」
「王太子殿下?」
王太子殿下の言葉は、ガブリエルの暴挙よりもわたしを当惑させ、混乱させる。
「その想いは、日に日に増してゆく。だが、王子という立場がかえって不便にさせてしまう。軽々しい行動が出来ないからだ。思いあまって、きみの親友であるソフィアに相談をした。彼女は応援してくれると言ってくれて、実際、彼女はきみにいろいろと働きかけてくれた。遊びに行こうとか、サロンに行こうとかね。そこで偶然を装い、図書館以外できみとつき合えればとかんがえていた。が、きみは頑なに誘いにのってくれない。火傷の跡のことと、きみ自身の性格だということは、いまは理解している。だが、わたしにすれば、きみが公爵子息を愛していて、彼以外には興味がないのだとしかかんがえられなかった。ソフィアは、ちがうと断言してくれていたけどね。だから、何かと理由をつけては図書館に通い、束の間でもきみとすごした」
わたしの頭も心も混乱している中、王太子殿下の言葉は続く。
「きみの顔をじっと見つめていたい。だけど、きみに気を遣わせるだけだと、わざと視線を合わせないようにした。きみさえよければ、顔を隠す必要なんてない。それと、今回のことはソフィアと計画したことなんだ。ひとえに、愚かきわまりない公爵子息をぎゃふんと言わせるためにね。だが、まさかあんな暴挙に出るとは……。きみを傷つけてしまった。すまない」
固まったままでいると、王太子殿下の指先がわたしの火傷の跡をなぞった。
「陛下」
「国王陛下」
人々のざわめきとともに、今度は国王陛下がいらっしゃった。
「マルコ、わが息子ながらじつに不甲斐ない」
国王陛下に挨拶しようとすると、陛下におしとどめられてしまった。
「諸外国のやり手外交官にたいしては容赦がないのに、なにゆえ一人の女性を口説くのにそこまでくどくどと遠まわりをするのだ?たった一言、『愛している。妻になってくれ』この一言ですむではないか」
「父上……」
「陛下のおっしゃる通りです。さあ、殿下。回りくどいことは抜きにして、はやくはやく」
ソフィアが言うと、周囲の人々も「はやくはやく」と叫びはじめた。
王太子殿下の胸がふくらんだのを感じた瞬間、
「アリサ・クースコスキ伯爵令嬢、わたしの婚約者になってほしい。いや、妻になってほしい」
殿下が力いっぱい叫んだ。
一瞬にして、頭の中が真っ白になってしまった。
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