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最高のしあわせ
元婚約者のガブリエル・ラムサは、あの舞踏会で毒杯を賜った。
わたしにたいしての仕打ちはともかく、幼馴染の死にしばらく呆然としてしまった。
しかし、『公爵家子息としての当然の刑なのよ』と、ソフィアは悲し気に言った。
彼女もまた、心のどこかで彼を悼んでいるのかもしれない。
ラムサ家の当主は、彼の弟が継ぐことになるらしい。
それから、後見人である叔父夫婦は長年のクースコスキ伯爵家の管理の不当さを言及および審理され、王都から放逐されることになった。
現在、王族専属の管理人が伯爵家の管理をしてくれている。
月に一度の読み聞かせの会に、今月も街の大勢の子どもたちが集まってくれている。
火傷の跡は白粉でごまかし、以前のように隠すようなことはしていない。
街の人々、とりわけ子どもたちが怖がると心配をしたけれども、「痛い?」とか「大丈夫?」などと心配してくれることはあっても、とくに気にしていないようで安心をした。
読み聞かせが終わったタイミングで、王太子殿下が訪れてきた。
子どもたちを連れてきている母親たちは、王太子殿下と気がついて恐縮しながらも、その美しさに見惚れてもいる。
子どもたちは、突如あらわれた美形をめずらしそうに見ている。
「お兄さんはだれ?」
女の子が尋ねた。その子の母親は卒倒しそうになっているけれど、子どもたちにわかるわけもない。
王太子殿下は母親に首を振ってから両膝を折り、彼女に目線を合わせた。
「お兄さんは、アリサ先生の婚約者なんだ」
「ええっ?」
叫び声をあげたのは、子どもたちではなく母親たちである。
「婚約者?」
「ぼく知っているよ。結婚する約束をしている人のことだよね」
「じゃぁアリサ先生、結婚するの?」
「そうだよ。近いうちにね。みんなもお祝いに来てくれるかな?」
「行きたい」
「行くよ」
子どもたちは、いっせいに行くといいだした。
「みんな、ありがとう。こちらのお兄さんはね、王子様なのよ」
子どもたちの反応が可愛くってつい口をはさんでしまった。
「え?じゃあ、白馬の王子様?素敵」
「だったら、白馬に乗って結婚式をするんだね」
「お母さん、わたしも白馬の王子様と結婚をしたい」
「わたしも」
「ぼくは、白馬の王子様になりたい。それで、アリサ先生みたいなきれいな王女様と白馬に乗るんだ」
「ぼくもそうしたい」
大盛り上がりである。
「決めた。図書館でちょっとした式を挙げよう。子どもたちやそのご両親、ここの常連さんを招いてね。おっと、わたしたちのキューピッドのソフィアを忘れてはいけないな」
「素敵ですね。では、殿下。白馬の準備もお忘れなく」
「アリサ、それは心配はいらないよ。わたしの愛馬は白馬だから」
思わず笑ってしまった。
本当の挙式より楽しみだわ。
じょじょに自分がかわってきているのを感じる。
「アリサ、きみはやはり美しい。以前にも増して輝いているよ」
「殿下、あなたもです」
抱き寄せられた。
子どもたちが目を丸くしている。
教育上、よくないかしら?
「心から愛している」
「心から愛しています」
子どもたちがキャーキャーと騒ぐ中、王太子殿下と口づけをかわした。
わたしはいま、最高にしあわせである。
(了)
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