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王太子殿下 2
「かしこまりました。それではすぐそこの区画の書棚を整理しておりますので、御用がございましたら……」
「い、いや、すぐ側に、あ、いや、そうだ。ほら、椅子を持ってくるから、ここに座っていてくれないかな?」
王太子殿下はわたしの言葉をさえぎると、すぐ近くの机から椅子をかついできてご自身の机の側に置いた。
「殿下、それでは近すぎて気が散ってしまわれます」
「あ……。すまない。そうだね。近すぎる。じゃあ、机をはさもう」
慌てて置き直したが、さして大きくもない机をはさんでいるだけ。距離が近いことにかわりはない。
「さあ、ここに座って」
そう勧められれば従わないわけにはいかない。
しかも、真向いだなんて。
醜いものを見せてしまうことになる。
さりげなく髪で火傷の跡を隠し、顔はよりいっそううつむき加減にした。
王太子殿下は、最初こそ準備した資料に目を通していたが、気がついたら本のことで会話をかわしていた。
今日もまたね。書庫だけではない。執務室でも結局は本の話で盛り上がってしまう。
ふだんは他人との会話が苦手なわたしも、本の話題だけは心から楽しめる。
今日もまた、隣国の作家の小説の話で熱く語ってしまった。
こういうとき、王太子殿下はわたしの豹変ぶりにひいてしまっている。
それでなくっても不愉快な外見なのに、よりいっそう不愉快な思いをさせてしまう。
恥ずかしさと申しわけなさでいっぱいになる。
資料を元の書棚に戻すので、執務室にどうぞと勧めても、いっしょに直すからと高い書棚に自分で戻してくれた。
こういう気遣いができるって素晴らしいわよね。
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