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舞踏会 2
隠れ立っているのがつらすぎる。耐えられない気持ちでいっぱいである。
どれだけ経っているのかわからないし、あとどれだけ耐えなければならないかもわからない。
人々も踊ることに飽きはじめたらしい。壁際により、談笑する人の数が増えてきた。
そのとき、国王陛下に直訴する叫び声がきこえてきた。
「おそれながら、この場をお借りしてめでたき発表をさせていただきたく」
そのねっとりとした声は、まぎれもなく元婚約者ガブリエル・ラムサのものにちがいない。
なんて畏れ多いこと。
国王陛下に申し出てまで?
舞踏会が終了し、残っている人々に告げる程度かと思っていた。
それを、いままさしく舞踏会の最中に?
いくらなんでも畏れ多すぎる。
というよりかは、愚かでしかない。
あらためて元婚約者の非常識さを思い知らされた。
しばらく間があいている。
おそらく陛下の側近たちが、ガブリエルの愚かな申し出を蹴る算段でもしているのでしょう。
そのとき、また直訴する声が上がった。
「陛下。わがティーカネン侯爵家にもかかわることでございます。どうかラムサ公爵家子息の願いをおきき届けください」
ソフィアのお父様、つまりティーカネン侯爵の声である。
ティーカネン家は名門中の名門。そのティーカネン家の申し出なら、国王陛下もむげにはできない。
すぐに許可が出てしまった。
「いたっ!アリサ、やっと見つけたわよ」
よりにもよってソフィアが駆けよってきた。
「こんなところに隠れていたのね。お父様に頼んで最高の舞台を準備したわよ。さあ、来なさい。あなたも主役の一人なんだから」
彼女は、後退りするわたしの腕をつかむとぐいぐいひっぱりはじめた。
ひきずられるようにし、大広間の中央部分に連れてゆかれてしまった。
いやでも多くの人々に注目されてしまう。
消えてしまいたい。
「おや、来ていたんだ。へー、ちょっとは見られるようにして来たんだな」
わたしの姿を見て、ガブリエルはちょっと意外そうな表情になった。
あなたが来いと言ったのよ。
もっとも、それだけでは来なかっただろうけど。
ソフィアに無理矢理連れてこられたようなものなのだから。
それに、恰好だってそう。両親が亡くなってからのわたしの事情をわかっているくせに。
いつものみすぼらしい恰好で出席をするとでも思っていたのかしら?
それだったら、出席するわけがない。
「まあいいさ」
それから彼は、残酷な笑みを浮かべた。
「今宵をもちまして、わたしことガブリエル・ラムサ公爵子息は、アリサ・クースコスキ伯爵令嬢との婚約を破棄いたします」
それから、高らかに宣言をした。
人々の憐みの視線が痛いほどである。
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