てっていてきにざまぁを 2

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てっていてきにざまぁを 2

 まだ子どものころ、わたしたち三人、というよりはガブリエルが火遊びをしたことがあった。彼の屋敷の別棟の裏庭でのことである。彼が面白半分にランプの油を紙にたらし、どのくらい燃えるか試してみようとしたのである。  運悪く強風にあおられ、たった紙一枚の小さな火がボヤにまでなってしまった。  彼は、まだその手に燃え盛る紙を握ったままでいた。  衣服に燃え移る。  無我夢中だった。わたしは彼の手からその紙を払い落そうとして、そして……。  わたし自身の髪の一部を燃やし、左半面に大きな火傷を負ってしまった。  ボヤ騒ぎを起こしてしまった。  彼は、両親から叱責を受けてしまう。  だから、彼はわたしのせいにした。  すべてはわたしがやったことだと。  わたしは、反論しなかった。ソフィアにもだまっているようお願いをした。  お咎めはなかった。というよりも、火傷を負って寝込んでいるわたしにたいして、咎めようがないからである。  その火傷のことは、暗黙の了解でだれも何も話をすることはなかった。  当初はガブリエルも気に病んでいるようだったけれど、それも月日が経つにつれ気にしなくなった。  おそらくあのボヤのことは、すべてがわたしのせいで、わたしの自業自得だと彼の記憶は書き換えられているのだと思っている。  ソフィアの説明を、人々はただだまってきいている。その説明が終わったとき、人々は彼を非難しはじめた。  その筆頭が、彼の両親。つまり、ラムサ公爵夫妻である。 「アリサのことは、生涯わが家で面倒をみるのが当然のことなのに……。このバカたれは、なんということをしでかしてくれたのだ」  公爵は、大声でなじりはじめた。 「そんな昔のことを。そんなことはささいなことだし、ただの過程だ。火遊びをしていたのはわたしだけではない。わたしだけに非があるわけじゃない」 「なにをズレたことを言っているの?」 「うるさいっ!ソフィア、きみはいったいどちらの味方なんだ。せっかく婚約をしてやろうというのに、その態度はなんだ?」 「はあ?あなた、わたしの言葉をきいていたの?呆れ返ったバカね」 「うるさい、うるさい、うるさいっ!」  ガブリエルが突然キレてしまった。  彼は昔からそうである。自分の思いどおりにならなかったり、都合が悪くなるとすぐに癇癪を起すのである。  彼はズカズカとわたしたちに近づいてくるなり、わたしの腕をつかんで乱暴に自分へと引き寄せた。 「この忌々しい火傷の跡が悪いのだ」  そして、見当違いのことをわめきながら、髪をひっぱりはじめた。  周囲から悲鳴や非難の声が上がる。  そのとき、またあらたな声が上がった。
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