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てっていてきにざまぁを 3
「殿下」
「王太子殿下」
人垣が左右に分かれ、その間からあらわれたのは、王太子殿下である。
いらっしゃっていたんだ。ということは、この茶番をきいていらっしゃったのね。
演じているのはガブリエルだけど、恥ずかしさでいっぱいになってしまう。
いまのこの一幕は、多くの貴族が目の当たりにしている。
王太子殿下も、今後図書館にやって来てわたしと会話をかわすのがイヤになっているにちがいない。
そうかんがえると、さみしさと悲しみでいっぱいになった。
そこではじめて、わたしは王太子殿下のことを想っているのだと気がついた。
畏れ多すぎることではあるけれども。
王太子殿下は周囲の挨拶の言葉を気にもとめず、わたしたちの前に立った。
こんな王太子殿下の表情ははじめて見た。
険しい表情でガブリエルをにらみつけている。
「王太子殿下?」
ガブリエルは、当惑している。
「ラムサ公爵子息、アリサから手を放せ」
王太子殿下が静かに命じた。
「は?」
「きこえなかったのか?彼女から手を放せと命じたのだ」
「え?ど、どうして……」
「いいから放せっ!その汚らわしい手で彼女に触れるのではない」
王太子殿下の怒鳴り声に驚いたのか、わたしの腕からガブリエルの手が離れた。
その瞬間、王太子殿下に腕をつかまれ引き寄せられてしまった。
「アリサ、ケガはないかい?」
「は、はい」
火傷の跡をさらしたまま、王太子殿下とはじめて目と目を合わせた。しかも、こんなに至近距離で。
不愉快な思いをさせてしまっている、ととっさに手が髪にのびようとして……。
「かまわない。アリサ、そのままでいい」
王太子殿下の神々しいまでの美形にやさしい笑みが浮かんだ。
「公爵子息、きみは見下げ果てた男だな。同性として恥ずかしいかぎりだ。だが、きみがアリサとの婚約を破棄してくれたことには感謝している。アリサを自由にしてくれてありがとう」
「はい?どういう意味……」
「わたしは、ずっときみという存在が疎ましかった。他の貴族令嬢たちと散々遊んでいながら、いたずらに彼女をしばりつけていたのが腹立たしかった。どれだけきみをどうにかしたかったことか。どれだけきみから彼女を奪いたかったことか。だが、それももう終わりだ。きみ自身の愚かさのお蔭でね」
「殿下、そんなクズに気をつかう必要はありません。そんなことより、はやく彼女に告白してください」
ソフィアの言葉に、王太子殿下の顔が真っ赤になった。
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