18.レナ・アセルス 〈エリナ視点〉

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18.レナ・アセルス 〈エリナ視点〉

 レナ・アセルスは、私、エリナ・クランベルの仮の名前。  名を捨て、身分を捨て、一人の人間として自分がどれだけやれるのかを知る為に作った仮の自分。  クランべル家は代々の貴族ではなかったとお父様から聞いている。  城の兵士であった祖先が、武勲を重ね、貴族に成り上がったと。  それならばと、私も祖先の様に一から始め、どこに辿り着けるのかを見てみたい。  エマに頼み、私はレナ・アルセスとして、クランベル領から遠く離れたリーヴェル領に来ていた。  そこで私は、社会勉強の一環として自分にできる仕事を探した。    幼い十歳の身、そう簡単に仕事が見つかるとは私もエマも思っていなかったのだけど、意外なのか、運が良かったのか、仕事はすぐに見つけることが出来た。  町の仕事募集の掲示板。  そこには、畑仕事を営む家族からの求人募集が載っていた。  採用年齢は不問。  ただし、給金は現物支給。  畑で取れた野菜のみ。  これでは誰も仕事を請け負わないと、エマは呆れていた。  張り出されている募集の紙が、他のものと違って古いのも頷ける。  それでも仕事が出来るのならと、私は反対するエマを説得して、その仕事を始めることに決めた。  仕事先はリーヴェル領の外れにあるメイサ村。  仕事の依頼主の名は、『リーシャ・ワトソン』  驚くことに、このリーシャ・ワトソンは私と同い年の十歳の少女だった。  母子家庭の彼女は、病気の母に変わり、幼い兄妹達の為に父親の残した畑で作物を作って生計を立てていた。  衝撃的だった。  そう、彼女は私と同じ十歳にして、一家を支える主だったのだ。  この仕事を選んで良かったと思う。  私は彼女から、今まで自分が知る事の出来なかった、沢山の事を学んだのだから。  社会を、世界を。  そして、かけがえのない友情を。
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