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【9.エマの日記 その2】
〇月15日
ルーク様は、妹様であられるエリナ様を|溺愛(できあい)されている。
常に言ってらっしゃった。
何よりも優先すべきは、エリナ様であると。
その為に、エリナ様にとって尊敬の出来る、頼もしく強い兄でありたいと。
ルーク様の起こす行動の原理は、もしかしたらエリナ様にあるのかもしれない。
しかし、悲しい事にエリナ様はルーク様を避けていらっしゃる。
決してルーク様を嫌っているからではない。
むしろ、ルーク様を想うからこそ、エリナ様はルーク様を遠ざけようとしていらっしゃる。
この事は私とエリナ様の秘密となっている。
それが返って、良くない結果をもたらしている気もする。
エリナ様に避けられ、近付くことのできないルーク様は、私に文字を教え、日記を作るように命ぜられた。
エリナ様の、成長に関する日記を。
私はその日記を毎日ルーク様と交換している。
この日記は、ルーク様|曰(いわ)く『交換日記』というものらしい。
健康状態。日々の様子。誰とどのような会話をしたのかまで書き留めている。
特に同世代との会話は、一字一句漏らさずに正確に文章にして記録し、暗記されている。
ルーク様は大層、エリナ様を心配なされているようだ。
『今日、エリナのおでこに吹き出物できてなかった? 栄養バランスの問題かな? それともストレスかな?』
『あれ? 昨日より笑顔の数が2回少ない!』
『こいつエリナに気があるんじゃね? 今度落とし穴を作るからエマも手伝って』
なんて妹想いのルーク様。
かつてこれほど妹に愛情を注ぎ、気を使っている兄を私は知りません。
だから面と向かってはっきりと、私は次の言葉をルーク様に届けたい。
あなたは重度の病気です。と……
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