【9.エマの日記 その2】

1/1
前へ
/22ページ
次へ

【9.エマの日記 その2】

 〇月15日  ルーク様は、妹様であられるエリナ様を|溺愛(できあい)されている。  常に言ってらっしゃった。  何よりも優先すべきは、エリナ様であると。  その為に、エリナ様にとって尊敬の出来る、頼もしく強い兄でありたいと。  ルーク様の起こす行動の原理は、もしかしたらエリナ様にあるのかもしれない。  しかし、悲しい事にエリナ様はルーク様を避けていらっしゃる。  決してルーク様を嫌っているからではない。  むしろ、ルーク様を想うからこそ、エリナ様はルーク様を遠ざけようとしていらっしゃる。  この事は私とエリナ様の秘密となっている。  それが返って、良くない結果をもたらしている気もする。  エリナ様に避けられ、近付くことのできないルーク様は、私に文字を教え、日記を作るように命ぜられた。  エリナ様の、成長に関する日記を。  私はその日記を毎日ルーク様と交換している。  この日記は、ルーク様|曰(いわ)く『交換日記』というものらしい。  健康状態。日々の様子。誰とどのような会話をしたのかまで書き留めている。  特に同世代との会話は、一字一句漏らさずに正確に文章にして記録し、暗記されている。  ルーク様は大層、エリナ様を心配なされているようだ。 『今日、エリナのおでこに吹き出物できてなかった? 栄養バランスの問題かな? それともストレスかな?』 『あれ? 昨日より笑顔の数が2回少ない!』 『こいつエリナに気があるんじゃね? 今度落とし穴を作るからエマも手伝って』  なんて妹想いのルーク様。  かつてこれほど妹に愛情を注ぎ、気を使っている兄を私は知りません。  だから面と向かってはっきりと、私は次の言葉をルーク様に届けたい。  あなたは重度の病気です。と……
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加