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第1話 俺たちに正義はない
「クライ、疑液体の粘度が高まってきたぞ。このまま『ウォーカー』が歩行を続ければ抵抗が限界に達するのも時間の問題だ」
眼下をゆっくり飛んでいるギランに諭され、俺は「いいぜ、合体しよう。飛行要塞だ」と応じた。
俺が膝のあたりにあるハンドルを引くと、俺が操縦する『ウィンガー』が翼を収納しながら降下を始めた。歩行型の『ウォーカー』を含めた三機合体をスムーズに運ぶためには、まず先に飛行形態の二機が合体した方が何かとうまく運ぶ。
「準備オーケーだ、ギラン」
「ようし、じゃあ久しぶりに合体するか」
飛行艇の形をしたギランの『チェスター』はふわりと上昇すると、背中からドッキング用の連結器を出した。俺は女をじらすように尻の方から近づくと、『ウィンガー』の腹部からせり出した連結器を一ミリの狂いもなく『チェスター』のそれとドッキングさせた。
「オーケー、うまく行ったぜ相棒」
俺が声をかけるとギランが「あとは眩三の『ウォーカー』だな」と満足げに返した。
「聞こえるか、眩三。波の粘りが強くなってきた。三機合体だ」
「了解した。準備をして待っているぞ」
先を行く眩三の『ウォーカー』が膝下に絡みつく『波』を蹴り上げると、機体が空中に浮いた。
大量の液体を滴らせながら浮遊している巨大な『下半身』は、両足を畳んでコンパクトな形態になると浮いたまま水面上を移動し始めた。
「この辺りは歩きづらいと聞いてたけど……どうやら『海』全体の粘度も高くなってきているようだな」
合体した『ウィンガー』と『チェスター』は『ウォーカー』の真上に来ると、三機合体モードに変形を開始した。『チェスター』の腹部が開いて雄型の連結アームが伸びると、『ウォーカー』側からも同時に雌型の連結アームが迎えるように伸びた。
「ようし、合体だ。飛行要塞型もたまにはいいもんだな」
俺は下から突き上げるようなドッキングの衝撃に、何とも言えぬ興奮を覚えた。
俺たち三人は巨大な空とぶ城の城主となって、毒性物質で満たされた『海』を真下に臨みながら進み始めた。
※
2xxx年、アジア海上に出現した海上国家が突如、国際条約で禁止されている実験を行い、太平洋の一部は周辺の国を巻きこんだ汚染状態となった。
海と地表は毒性物質によって人類の棲息に適さない場所となり、地表数十メートルほどの部分は常に波打つ毒性の疑液体にことごとく覆われている。
人々は人工島、人口空中都市などを国家代わりとし、その間を船や飛行機で行き来しながら細々と生きながらえているのだ。
俺たちには目的もない。正義もない。ただ、他の奴らよりも遠くへ、誰も見たことのない風景を見たくて気ままな旅を続けている。
俺たち三人に共通するとりあえずのゴールは、この海のどこかにあると言われる『乾いた土地』と呼ばれる周囲から隔絶された陸地だ。そこには天然の土壌と動植物が、異変の前と同じように残っているという。
今、俺たちの手元にあるものと言えば『乾いた土地』にたどり着くために不可欠と言われる三つのコンパスのうちの一つ『海鳥の羅針盤』だけだ。
俺たちは汚染された海のあちこちにある島を巡りながら、コンパスが示す方向に向けて水上や空中をふらふらと彷徨っている。
時にはコンパスを狙う無法者どもと一線を交えることもある。それは肉弾戦のこともあれば、戦闘体型に姿を変えた『城』の武装を使ってのこともある。
俺たちは戦うことはそれほど好きじゃない。だが、降りかかる火の粉があれば逃げたりしない。徹底的にやるだけだ。
「クライ、なんだか腹が減ってきたぜ。一番近い『島』はどこだ?」
情けない声を上げるギランに俺は「ちょっと待て、コンパス様に聞いてみる」と言って舟の舵輪に似た操縦桿の真ん中にはまっている『海鳥のコンパス』に目をやった。
「……どうやら、そう遠くない位置に中くらいの『島』があるみたいだ。行ってみようぜ」
俺は機体の位置を示すマーカーをコンパスの先に重ね合わせると、「頼むぜ」と言った。
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