第2話 空中砦の三悪人

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第2話 空中砦の三悪人

俺の名はクライ・バディス。親の顔も碌に知らない風来坊だ。  錆びついたドラム缶のようなゆりかごに乗って毒の海を漂っていたところを、もの好きな人物に拾われて帽子みたいな形の人工島で育った。十代になった俺は手作りの『船』で島を出て、方々をめぐりながら生きるすべを身につけた。やがてギランや眩三と出会い、強奪に近い形で三機の動く『鋼鉄の城』を手に入れた。  しばらくは三人で気ままに旅を続けていたが、ひょんなことから『海鳥のコンパス』を手に入れた俺たちは、噂に聞く『乾いた土地』に足を踏み入れたくていてもたってもいられなくなった。  そこで残りのコンパスのありかを探りながら、コンパスや城を奪おうとやってくる敵と戦ったり、時には俺たち自身が海賊顔負けの盗みを働いたりして共通の目的地を目指し始めたというわけだ。  近頃の悩みと言えば、毒の海神と呼ばれるポセイズンって奴がしばしば行く手に現れることと、やはりコンパスを狙っているらしい女とあちこちの島でかち合うっていう事だ。  島に寄ると何かと面倒に巻きこまれるので、できれば寄らずにやり過ごしたいが、そうもいかない事情がある。『城』のメンテナンスもぼちぼちしないとふいの戦闘に耐えられなくなりそうだし、なにより俺たちの一番の楽しみである食事の質が落ち始めているという切羽詰まった問題があるのだ。                   ※ 「マイダスアイランド?聞いたことがねえ島だな」  『城』の真ん中、つまり『チェスター』の内部にあるささやかなラウンジでギランが言った。飛行形態の『城』はオートパイロットで放っておいてもコンパスの示す方向を勝手に目指してくれるのだ。 「どうも島全体がカジノみたいな観光島のようだ。やってくる旅行者から外貨をむしり取って丸裸にする場所……という評判がある半面、腕のいい機械工や絶品の料理を作る料理人も多いようだ。一山当てて美食を楽しむか、すっからかんにされて海に捨てられるか」 「ここで旅を終わらせてどうすんだ。こっちがむしり取ってやろうぜ」  ギランが大きな口を捻じ曲げて笑みを見せると、黙っていた眩三が「馬鹿正直だな。賭け事ってのは胴元が勝つと決まっている。植えた獣の口に飛び込んでいくような物だ」と言った。 「じゃあどうすんだい。イカサマをやってばれたら、生きて島から出られないぜ」  ギランが不服そうに鼻を鳴らした途端、俺の中で何かが閃いた。 「待てよ、旅人の身ぐるみを剥がすような連中なら、どこかに弱みがあるはずだ。そこを衝いて汚ない金を頂いちまえばいい」 「脅迫や強盗は性に合わねえな」 「カモになったふりをして、手わけして汚い金のありかを探るのさ。あとは盛大に爆薬でもしかけてずらかっちまえば、後ろ暗いところのある奴らは追っちゃこねえだろう」 「悪人から金品を強奪するってことか。俺たちもいっぱしのワルになってきたな」 「なに、毒の海を制する者は猛毒の血を持つ者だってことさ」  俺は窓の外に広がる赤い海に向けてグラスをかざすと、「悪人の勝利を祈って」と言った。
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