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一生最後の告白
『ねえ、聞いてくれよ』
きっと聞こえているだけど、お前は私の声を無視する。
『初めてお前に話しかけられた時、嬉しかったんだよ』
描こうとしていたお前の手が一瞬止まる。
『お前を友達でありライバルと認めた時は照れ臭さで死にそうだった』
私からは顔は見えないだけれど、お前の肩は震えていた。
『先に死んでしまって悪かった』
お前は鉛筆を手放して目を右手で覆う。一筋の涙が手を伝っていくのが見えた。
『お前とも個展をやりたかったし、何より伝えたいことがあった』
続きを言おうとした時だった。
お前がキャンパスを背にして、後ろにいた私に向き合う。最後に見た時よりやせ細った顔、肌の艶も失せ目から生気がなくなっている。
私は意を決してお前に言った。
『私はお前のことが好きだった』
お前は私を抱きしめた。死んで長らく重さも温度も無くしたこの姿を抱きしめられるとは思わなかった。お前は泣きながら応える。
「俺もだよ、ずっとずっと君に伝えたかった。俺は君と初めて会った時から好きだった」
私は死んで初めて泣いた。
ずっと同じ気持ちだったんだ。両思いだったんだ。だけれど、ずっと一緒の思いではいられない。
私はお前を突き放し、こう言った。
『私が好きなら約束してほしい。私が生きられなかった未来を生きていっぱい絵を描いてほしい』
それがお前にいうことができた最後の言葉だった。返事を聞く間も無い。だって私の心はもうお前に伝わったから。薄れゆく意識の中で頷いているお前の姿を見た。
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