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昔話をさせてください
この星のどこかの海に浮かぶ、小さな島の話です あんまり小さいから 名前もありません
その場所は、地図に載っていないから月と 太陽と 渡り鳥だけが知っていました
いつからでしょう そんな名もなき絶海の孤島に、密かに人が暮らしはじめて139万年は、経ったころの話です
自然と人が仲良かったころの話です 平穏な時の流れのなかで、争いなんて知るよしもなかったころのーー
緑豊かな山々にかこまれた村には、数えられるほどの島民が暮らしていました
村の隅っこにある丘 その頂上で、しずかに海を見渡すように佇む古い巨木こそ、わたしです
失礼とは思いながら背を向けている方角には、鬱蒼と茂った森が広がっております
それらの木々よりわたしは、何倍も年上で恐縮ながら、島の象徴として大切にして頂いている木でした
わたしを知らない雲や鳥やリスたちは、きっと無口なお爺さんだろうと敬遠し近寄ることはしませんでした いつからでしょう、木の実のひとつもなりません
ほんとうは控えめで可憐な少女のような内面でしたが だれも気づいていなかったのです
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