どろだらけの レインボー

2/18
前へ
/319ページ
次へ
『なな、朝だよ起きて』 『あと5分』 『遅れるぞ』 『大丈夫』  君のぬくもりがちょうど良い春。君のぬくもりが恋しくなる秋。君のぬくもりが物足りない冬。そして、君のぬくもりが熱すぎて背中を向けたい夏。 「月曜休んじゃおっかなぁー」 「はぁ? そんなんじゃ立派な先生になれないぞ」 「サボるって、罪?」 「そうだな、罪だ」 「じゃあ、逮捕してよ。逮捕されたので行けませんって、連絡する」 「ばーか」  君の真面目なところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。 「さっき友達から、月曜全部休講になったって連絡来た」 「嘘つくな」 「…………」 「あと1年と……8ヶ月? 頑張ろうよ」 「長っ」 「あっという間だよ」 「大人の1年8ヶ月が『あっ』でも、私の1年8ヶ月は『あっ』じゃない」 「えー、ほら見て、俺の時計もななの時計も同じ速度で動いてんじゃん。あはは」 「…………」 「だから、また今度」 「いっつも、会えるまでの時間は長いのに、一緒に居る時間は一瞬で過ぎて。全然足りなくて。1分1秒でも一緒に居たいのに……」 「俺もだよ。1分1秒でも一緒に居たいから、寮出たんじゃん」 「じゃあ、やっぱり明日も泊まる」 「こら。俺明日仕事だから居ないよ?」 「知ってる」 「明後日になる瞬間も居ないよ?」 「知ってる。でも、明後日の昼前には帰ってくるでしょ?」 「事件事故が無ければね……」 「無いでしょ。こんなド田舎で」 「ド田舎なめんなよ。だめ。明日帰って、明後日の授業にちゃんと出て」 「何で? 出席日数足りてるし。2限のためだけに行くのだるいよ。火曜だって3限からだし、火曜の朝に帰る」 「学生は勉強頑張ってください。ここでサボった結果単位落として4年で卒業出来ませんでしたなんてなったら、アホじゃん」 「そんなヘマしないし」 「どうだか。早く卒業して、早く帰ってこいよ。そしたら、今年の分の穴埋めなんていくらでもしてやるよ、未来で。100年でも200年でも」  君の大人なところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。 「……わかったよ。あっ、やっぱり2限も休講だっ……」 「まだ言う!? どんだけ行きたくないんだよ。嘘つきは泥棒の……」 「行きたくないんじゃない。特別な日だから……見逃してくれても良いじゃん。ねっ、許して」 「……許す、か」 「ん? どうしたの?」 「ななはあと何個、俺の嘘を許せる?」 「1個でも許さない。あはは。えっ、私に何か嘘ついたの?」 「嘘……っていうわけではないと思うけど、でも、嘘……なのかな」  君の器用なところが嫌いで、君の真っ直ぐすぎるところが嫌いで、君の優しすぎるところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。  君だから、好きだった。  のに――――。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加