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『なな、朝だよ起きて』
『あと5分』
『遅れるぞ』
『大丈夫』
君のぬくもりがちょうど良い春。君のぬくもりが恋しくなる秋。君のぬくもりが物足りない冬。そして、君のぬくもりが熱すぎて背中を向けたい夏。
「月曜休んじゃおっかなぁー」
「はぁ? そんなんじゃ立派な先生になれないぞ」
「サボるって、罪?」
「そうだな、罪だ」
「じゃあ、逮捕してよ。逮捕されたので行けませんって、連絡する」
「ばーか」
君の真面目なところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。
「さっき友達から、月曜全部休講になったって連絡来た」
「嘘つくな」
「…………」
「あと1年と……8ヶ月? 頑張ろうよ」
「長っ」
「あっという間だよ」
「大人の1年8ヶ月が『あっ』でも、私の1年8ヶ月は『あっ』じゃない」
「えー、ほら見て、俺の時計もななの時計も同じ速度で動いてんじゃん。あはは」
「…………」
「だから、また今度」
「いっつも、会えるまでの時間は長いのに、一緒に居る時間は一瞬で過ぎて。全然足りなくて。1分1秒でも一緒に居たいのに……」
「俺もだよ。1分1秒でも一緒に居たいから、寮出たんじゃん」
「じゃあ、やっぱり明日も泊まる」
「こら。俺明日仕事だから居ないよ?」
「知ってる」
「明後日になる瞬間も居ないよ?」
「知ってる。でも、明後日の昼前には帰ってくるでしょ?」
「事件事故が無ければね……」
「無いでしょ。こんなド田舎で」
「ド田舎なめんなよ。だめ。明日帰って、明後日の授業にちゃんと出て」
「何で? 出席日数足りてるし。2限のためだけに行くのだるいよ。火曜だって3限からだし、火曜の朝に帰る」
「学生は勉強頑張ってください。ここでサボった結果単位落として4年で卒業出来ませんでしたなんてなったら、アホじゃん」
「そんなヘマしないし」
「どうだか。早く卒業して、早く帰ってこいよ。そしたら、今年の分の穴埋めなんていくらでもしてやるよ、未来で。100年でも200年でも」
君の大人なところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。
「……わかったよ。あっ、やっぱり2限も休講だっ……」
「まだ言う!? どんだけ行きたくないんだよ。嘘つきは泥棒の……」
「行きたくないんじゃない。特別な日だから……見逃してくれても良いじゃん。ねっ、許して」
「……許す、か」
「ん? どうしたの?」
「ななはあと何個、俺の嘘を許せる?」
「1個でも許さない。あはは。えっ、私に何か嘘ついたの?」
「嘘……っていうわけではないと思うけど、でも、嘘……なのかな」
君の器用なところが嫌いで、君の真っ直ぐすぎるところが嫌いで、君の優しすぎるところが嫌いで、でも、そんな君だから、好きだった。
君だから、好きだった。
のに――――。
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