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――夢と現実の狭間で君を求める虚ろな私の『今日』は、君がもたらす夜明けから始まる。
起床時間の10分前、朝を告げる最初のアラームが鳴る前、なのか、鳴った後、なのかはわからない。
私は毎朝君の「起きて」で目を覚まし、アラームを止めると再び眠りに落ちる。
そしてその5分後に2度目のアラームが鳴り、君は「おはよう。愛してる」と囁く。
「先に行くよ」と背中を向ける君に「まだ行かないで」と手を伸ばせば、君は太陽よりも眩しい笑顔で静かに私を包んでくれる。
けれど、目を覚ました私が「愛してる」と返しても、君はもうそこにはいない。
君は足音も立てずに私の傍からそっといなくなっている。
君の「愛してる」は芯の綻びにまで沁み透るくらいあたたかいのに、君の尊いぬくもりは微塵も残っていない。
それが君の優しさなのだろうか。
1LDKの6畳あまりの寝室に取り残された私は無機質な電子音を黙らせ、布団の中で伸びをした後に真っ白な天井を見上げる。
遮光カーテンで光が遮られた部屋の天井が真っ白に見えることなんて、無いに等しくて。それでも事実、天井は真っ白で。
目に見える現実がイコール真実だとは限らない。
それを知っている私の朝は静かで冷たくて、寂しい。
今日の空は何色だろう――。
空に色なんて無いことを知りながらも、無色に水色がシンクロする空模様に想いを馳せた指先で頭上の白いカーテンを少しだけめくる。
そして、6時を知らせる3度目のアラームで私は起き上がる。
――毎日、それの繰り返しだ。
君は必ず私を起こしに来る。どんな時でも必ずだ。
雨の日も晴れの日も、雪の日も。
目覚めたくない朝も、君は満面の笑みを浮かべ「起きて」と囁く。
そして、真っ暗な朝に無色透明な「愛してる」を添える。
君に「愛してる」と囁かれ目を覚ます雨の日の朝は、私は決まって、泣いている――――。
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