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「……とりあえず、来週の補講に関しては6限に他の補講と重複している学生がいないか調べて、改めてご連絡しますね」
今日休講です、来週補講したいです、は勘弁していただきたい。学外で実施したい授業であれば尚更。
「おう、よろしく。もし他の補講と被っている学生が5人以上いたら日程変更するから早めに教えて。4人までだったらその子たちは課題とDVDの映像で個別対応するから来週で組んじゃって」
「来週の金曜がだめだったら、翌日の土曜でも良いですか?」
「やだ。学生たちに午前だと昼飯に連れて行けってたかられるし、午後だと飲みに連れて行けってたかられるから」
「学生そんなに暇じゃないでしょ。バイトとかデートとか、先生が思うよりも忙しいですよ」
「やだよ。先月だって土曜の2、3限に補講した時、学生たちに『一緒にランチしましょうよ』とか言われて、ピザの出前取らされたし」
「良かったじゃないですか」
「良くねぇよ。それに、来週の土曜は俺がだめだわ。とにかく、平日で頼むわ」
「了解でーす。プラネタリウムかぁ……小学生の頃に友達と行ったなぁ。あれっ、学校行事だったっけ? 何で行ったんだっけ……」
休講届の余白にシャープペンで『重複4人までは個別対応』『5人以上NG、土曜NG、2限続きで可能な平日』とメモを殴り書きながら、曖昧な記憶を辿った。
プラネタリウムって、どんな空間だったっけ? どんな景色だったっけ? 何度の室温で何パーセントの湿度で、どんな音が流れているんだっけ?
浮かんできた記憶はおぼろげで、それが本物の記憶なのか想像なのかもわからないほどに不鮮明だった。
「小学生の頃と今とでは同じものでも別のものに見えるかもな。来週の金曜は新月だから本当は星空観測日和なんだぞ。まぁ、俺は授業が終わったら助手と院生と八ヶ岳に行くから良いけど。だから、土曜に補講は絶対にだめだ」
「八ヶ岳!? 随分ハードですね」
「そうか? そんなことねぇよ」
「先生八ヶ岳好きですね。夏休みのゼミ合宿も八ヶ岳ですよね? 毎年恒例の流星群観測」
「おうよ。今年のペルセウス座流星群は8月13日の10時に極大で、11日が新月だ。流星群観測するなら、12日の夜が最高だぞ」
「そうですか」
「佐崎もゼミ合宿参加するか? 10日から3泊だ」
「いや、私学生じゃないですし」
「引率職員として、もしくは夏休み限定で俺の助手になるか」
「いや……遠慮します」
「つれないなぁ、毎年誘ってやってんのに。何なら9月の海外出張に同行するか? 3週間。あっ、でも、新婚の嫁を3週間も借りていくのはあれか」
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