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背徳感
翔馬とのやり取りは、だんだんと密になっていった。私はまるで、初めて恋人ができた女子高生のようにウキウキとしていて、それは隠しているつもりでも滲み出てしまっていたようだ。
「お母さん?なんかいいことあったの?」
陽菜に言われて、ドキッとする。落ち着いて考えたら、不倫してるわけでもなくただ誰にも内緒で楽しくやり取りしてる人がいるというだけなんだけど。
「え?なんで?」
「なぁんかさぁ…楽しそう!さっきも鼻歌が出てたよ、掃除しながら」
「そうだった?なんとなく掃除してたら綺麗になって気分よくなったからかな?」
よくわからない言い訳をしてしまう。こんな時の女子は、小学生でも鋭いことをついてきそうだ。
「別にいいけどね。不機嫌でいられるよりずっと」
「お母さん、そんなに不機嫌だった?」
「んー、怒ってるんじゃないけど、元気がないというか、いつも疲れてるみたいでさ。今の方がいいよ」
「そっか。あんまり気にしてなかったけど、これからは気をつけるね」
思わず態度に出てしまうほど、私は浮かれていたのだろう。気をつけないと、何を言われるかわからない。陽菜が夫に話して夫に不審に思われたくない。
_____別に、好きだと言ったわけでも言われたわけでもないのに何を気にしてるんだろう?
それでもつきまとう背徳感のようなものが、よけいに私の気持ちを持ち上げてるようだ。そしてそのことを翔馬に伝えたくなった。
〈娘に、最近のお母さんはいいことがあったようで機嫌がいい、と言われました。これは翔馬さんとたくさんお話ができて、毎日が楽しいからだと思います。翔馬さんのおかげで家族にも優しくできるので、とても感謝しています〉
送信っと。
「陽菜、お母さん、買い物に行ってくるからお留守番お願いね、鍵は閉めて行くから」
「はーい、あ、そうだ、アイスクリーム買ってきてよ、チョコのやつ」
「はいはい、わかったから」
「やったぁ!」
ちょうどパート代も入ったし、陽菜のアイスクリームも買ってきてあげよう。それに、新しいメイク用品も買いたくなった。別に翔馬に会うわけでもないのに、綺麗にしたいと思ってしまう。
スーパーに到着して駐車場でスマホを開いた。翔馬からのDMを知らせる赤いレ点があった。
《娘さんがそんなことを?それはよかった。僕とのお付き合いでミハルさんにプラスの効果が出ているなら、僕の背徳感も少し薄れていくようでホッとしました》
_____え?お付き合い?背徳感?私と同じように背徳感を感じている?
私はそのことを確かめたくなった。お付き合いという単語と、背徳感の意味と。
〈お付き合いだなんて、ただサイトでやり取りしているだけですよ。なので、背徳感も感じなくていいと思いますが〉
ドキドキしながら文章を考えた。
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