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朝
ピピピッピピピッピピピッピピピッ…
枕元でアラームが鳴る。スマホのアラームは止めるのが難しい。
「うっるさいなぁ!」
ゴソゴソやっていると隣のベッドから夫の苛立つ声が聞こえた。私はやっとの思いでスマホのアラームを止めた。
「…ごめんなさい」
「あと30分寝る」
不機嫌そうな夫は、寝返りを打ってまた寝息になる。
___やっぱり、朝はツラい
貧血気味で低血圧の私は、朝起きるのがとてもツラい。それでも6時には起きて朝ごはんと長男のお弁当を作らないといけない。
___あ、今日はお弁当二つだった
長女の小学校は、今日給食がないと学校の一斉LINEで連絡があったことを思い出した。
まだふらつく頭を抱えて、キッチンへ向かう。冷蔵庫から卵やウィンナーを出す。
パタパタと足音がして、長男の伊織が起きてきた。
「おはよう、今日は早いのね?」
「あれ!昨夜言ったじゃん、試合に出る先輩の壮行会があるから早く行くって」
「あ、そうだった、ごめん、急いで準備するね」
言われていたことを忘れていた、そのせいで一気に目が覚めた。
「早くしてよ、遅刻したら先輩に睨まれるから」
伊織は高校1年生。中学の時から陸上をやっている。特に才能があるというわけではないが、好きなことを続けているようで頑張っている。
バタバタと今度は激しい足音だ。
「ちょっと、お母さん!私の大事なワンちゃんのハンカチ、知らない?洗濯しといてって言ったよね?」
「それなら、今から洗濯するやつに入ってるわよ」
「え、なんで!昨夜言ったじゃん、洗濯しといてって」
「だから、今から洗濯するんでしょ?どうしても今日欲しかったのなら自分で昨夜のうちに洗濯すればよかったでしょ?」
「あーっ、もうっ!あれ、お気に入りだから今日の避難訓練の時に使いたかったのに。もうっ!あ、それからお弁当!!」
「わかってる、今作るから」
「可愛く作ってよね!キャラ弁とかじゃなくていいから、赤いイチゴとか、オレンジとか、とにかく茶色はやめて。味より見た目なんだから!」
小学6年生の陽菜は、言うことだけは一人前だ。言うだけ言うと、さっさとリビングに座ってテレビをつけている。
ガチャリとドアが開いて、今度は夫の慎二が起きてきた。
「朝早くからうるさいなぁ、も少し寝かせてくれよ、昨夜も遅かったんだから」
「昨夜は何時だったの?私、寝ちゃってたけど」
「えっと、終電には間に合ったから12時回ったくらいだったよ」
___嘘だ
「そう。遅くまでご苦労様。言ってくれればそれくらいならおきてるのに」
「いや、それはいいよ、朝も大変だろうから」
「そう?それならいいけど」
昨夜…。
家族それぞれが昨夜の話をする。伊織も陽菜もちゃんと話している。夫の慎二だけが嘘をついている。そして誰も、私の昨夜を聞こうともしない。
___私の昨夜は、3時まで起きていた
玄関ドアの鍵が開く音がして、その時間が3時だった。夫は、こっそり3時に帰ってきた。
ソファに座って新聞を読んでいる夫を見ると、大きなアクビをしている。
___3時帰宅じゃ、寝不足だよね
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