友達?

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友達?

少しだけ残業して、スーパーに寄って買い物をする。 「あら?陽菜(ひな)ちゃんママ?」 後ろから話しかけられてびっくりした。 「えっと、あの…」 誰だったか思い出せない。陽菜(ひな)の友達のお母さんだとは思うけど。 「あら、お忘れ?幼稚園の時、陽菜(ひな)ちゃんと同じ桜組だった星羅(せいら)の母です」 「あっ、星羅(せいら)ちゃんの?お久しぶりです。あんまりお綺麗なんでわからなかったです」 薄手の花柄ワンピースに、ミントグリーンの羽織り、髪は長めで緩くウェーブがかかっている。 ___こんなイメージだったっけ? 「あら、お世辞でもうれしいわ。陽菜(ひな)ちゃんママも変わらないわね、すぐわかったわよ」 「あは…は。相変わらずです」 あの頃と変わらないというのは、決して褒め言葉じゃないと思ったが、そこを突き詰めるのはやめた。 「あ、そうそう!陽菜(ひな)ちゃんママは、インスタとかブログとかやってる?」 「いえ、やってないです…けど」 なんだか嫌な予感がしてきた。 「じゃあさ、これ、始めてみてよ。私、そこでブログ書いてるからフォローしてくれたらうれしいな。もちろん私も陽菜(ひな)ちゃんママをフォローするから」 「えっ!えっ!あ、あの、そんな…」 ブログなんて始める気もないし、わざわざ登録して他人の生活を覗き見るようなこともしたくない。正直言って興味がないのだけど、そんなことはこの人には言えない気がする。 「そうだ、ちょっとスマホ出して。LINEやってるでしょ?友達になりましょうよ、ね?」 なんだかその言い方が強引で断れず、バッグからスマホを出した。 「ほら、私のQRはこれだから、カメラで読み取って!」 言われるがままに操作する。ぴこんと音がして新しい友達が追加された。顎から下のデコルテの部分を切り取ってアイコンにしてある。よほど自分の体に自信があるのだろうか。 「これでよし。今ブログへのアクセスフォームを送ったから、ぜひお願いね!」 「あ、あの…澪梨(みおり)って?」 LINEの名前が違う。この人の名前は確かこんな名前じゃなかったはず、よく聞くケイコとかタカコとかだったような。 「あぁ、それ?ハンネよ。本名でやるわけないわよ、危ないし。あなたも登録するなら名前を変えたほうがいいわよ、念のためにね」 念のための意味がわからない。 「ちなみに、このスマホも澪梨(みおり)専用だから。そうだ、あなたの名前は陽菜(ひな)にしたら?今風で可愛いわよ」 じゃあね、よろしく!と帰って行った。 ___どうして私が娘の名前を名乗らなくちゃならないの? 納得いかないことだらけだった。とりあえず一つだけは解決したくて、娘にLINEした。 “幼稚園の時一緒だった、聖羅(せいら)ちゃんのお母さん、名前なんだったっけ?” ぴこん♪ “たけこ” あ、そうだった。思い出した。名前を思い出すと同時に当時の顔も思い出した。髪も肩くらいまでのボブで、名前のように地味で和風なイメージだった。 ___人って変わるものね でも結局、武子(たけこ)は、私の名前を最後まで呼ばなかった。澪梨(みおり)として陽菜ちゃんママと友達になりたかっただけのようだ。 ___それって、友達?
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