163人が本棚に入れています
本棚に追加
友達?
少しだけ残業して、スーパーに寄って買い物をする。
「あら?陽菜ちゃんママ?」
後ろから話しかけられてびっくりした。
「えっと、あの…」
誰だったか思い出せない。陽菜の友達のお母さんだとは思うけど。
「あら、お忘れ?幼稚園の時、陽菜ちゃんと同じ桜組だった星羅の母です」
「あっ、星羅ちゃんの?お久しぶりです。あんまりお綺麗なんでわからなかったです」
薄手の花柄ワンピースに、ミントグリーンの羽織り、髪は長めで緩くウェーブがかかっている。
___こんなイメージだったっけ?
「あら、お世辞でもうれしいわ。陽菜ちゃんママも変わらないわね、すぐわかったわよ」
「あは…は。相変わらずです」
あの頃と変わらないというのは、決して褒め言葉じゃないと思ったが、そこを突き詰めるのはやめた。
「あ、そうそう!陽菜ちゃんママは、インスタとかブログとかやってる?」
「いえ、やってないです…けど」
なんだか嫌な予感がしてきた。
「じゃあさ、これ、始めてみてよ。私、そこでブログ書いてるからフォローしてくれたらうれしいな。もちろん私も陽菜ちゃんママをフォローするから」
「えっ!えっ!あ、あの、そんな…」
ブログなんて始める気もないし、わざわざ登録して他人の生活を覗き見るようなこともしたくない。正直言って興味がないのだけど、そんなことはこの人には言えない気がする。
「そうだ、ちょっとスマホ出して。LINEやってるでしょ?友達になりましょうよ、ね?」
なんだかその言い方が強引で断れず、バッグからスマホを出した。
「ほら、私のQRはこれだから、カメラで読み取って!」
言われるがままに操作する。ぴこんと音がして新しい友達が追加された。顎から下のデコルテの部分を切り取ってアイコンにしてある。よほど自分の体に自信があるのだろうか。
「これでよし。今ブログへのアクセスフォームを送ったから、ぜひお願いね!」
「あ、あの…澪梨って?」
LINEの名前が違う。この人の名前は確かこんな名前じゃなかったはず、よく聞くケイコとかタカコとかだったような。
「あぁ、それ?ハンネよ。本名でやるわけないわよ、危ないし。あなたも登録するなら名前を変えたほうがいいわよ、念のためにね」
念のための意味がわからない。
「ちなみに、このスマホも澪梨専用だから。そうだ、あなたの名前は陽菜にしたら?今風で可愛いわよ」
じゃあね、よろしく!と帰って行った。
___どうして私が娘の名前を名乗らなくちゃならないの?
納得いかないことだらけだった。とりあえず一つだけは解決したくて、娘にLINEした。
“幼稚園の時一緒だった、聖羅ちゃんのお母さん、名前なんだったっけ?”
ぴこん♪
“たけこ”
あ、そうだった。思い出した。名前を思い出すと同時に当時の顔も思い出した。髪も肩くらいまでのボブで、名前のように地味で和風なイメージだった。
___人って変わるものね
でも結局、武子は、私の名前を最後まで呼ばなかった。澪梨として陽菜ちゃんママと友達になりたかっただけのようだ。
___それって、友達?
最初のコメントを投稿しよう!