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返済
最近、突発で休みが増えたことをマネージャーに注意された。よくないことだとはわかってる、でも。
「私、時間延長するので大丈夫ですよ、駒井さんは用事があるみたいだし」
私の代わりに仕事をしてくれると言ったのは美和子だった。
___用事を済ませてきて…
美和子のその言葉がなんとなく気になった。どこか、私のことを見透かしているようなところもある。翔馬とのことを言っているのだろうか?済ませてって、終わらせてって言っているのだろうか?そんなことを考えているうちに、どんどん翔馬が待つ駅に近づいていく。
___このお金を渡したらもう会えなくなるかもしれない
そうなるとお金も返してもらえなくなるかもしれない。いや、口座番号も電話番号もわかるから詐欺として訴えることもできるんじゃないか?そんなことも考えた。使ってしまったお金も、自分では簡単には補填できないし。
せっかく翔馬に会えるのに、気持ちがどんどん重くなっていく。
___用事を済ませて…
美和子の顔が浮かんだ。明日にでも話してみようか。あの人なら信頼できる気がする。
___そうだ、話を聞いてもらおう
そう決めたら少しだけ、気持ちが軽くなった。そんなことを考えていたら駅に着いた。改札を抜けたところで、翔馬が待っていた。
「なんか、久しぶりって気がするね」
「うん、そうだね」
あんなに大好きだった人なのに、今日はそんなにうれしくなかった。お金がないと言っても身なりはそれなりにキチンとしているし、髪も清潔にカットされてる。
___なんでだろ?私の方が惨めな感じがするのは
ネイルも一度きりで行ってないので、爪が伸びてみっともないし、美容院も行けなかった。それもこれもこの人にお金を渡すために我慢していたから。
「先に、行く?」
翔馬が指差したのは、ホテルの看板だった。気分が乗らないけど、2人きりになって話せるところがよかったから、うん、とうなづいた。
「サービスするよ、俺は今、ミハルの下僕だから」
「いやだ、そんなこと言わないで」
どこか卑屈に聞こえる翔馬の冗談は、私の気持ちを逆撫でした。
「本当だよ。ミハルがいなかったら俺は今こうやって生きていない。あの日、全てを差し押さえられた日は、俺の人生最期の日だと思っていたから。それがこうして生きている、感謝してもしきれないよ」
大袈裟にも聞こえるけど、それは事実かもしれない。
ホテルで肌を合わせても、あの日のようには感じなくてどこか冷めている私がいた。私がこの人に会いにきたのは愛しているからじゃなく、貸したお金を返してもらうためかもしれないと思った。
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