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心はどこか醒めているのに、カラダは熱く反応した。私は翔馬といるとただのメスになってしまう。それは、日常から離れられるひとときで素敵な時間だった、お金のことがあるまでは。
シャワーを浴びて、身支度を整えて、それからきちんと話すことにした。翔馬のことが好きだということと、お金のことはできれば分けて考えたかった。お金さえ返してくれれば、たまに会ってこんなふうに抱かれることは、私を女として存在させてくれるのだから。
「あの…あのね」
気だるそうにタバコをつける翔馬に、なんとかお金の話をしようとする。
「なに?」
「あ、これ、スマホ料金ね」
財布から2万円を出してテーブルに置いた。
「ありがとう、これでスマホを止められずに済むよ」
「…うん、よかった」
このあと、どうやって話をしようか?お金を返してくれる目処は立っているのか、訊くべきか…。翔馬は私が出した2万円を財布にしまった。
「そうだ、これ!」
何かを思い出したように、財布から封筒を取り出して私の前に置いた。
「これ、何?」
「これまで借りてたお金の、ほんの一部だけど。これだけ用意できたから返しておこうと思って」
「え?どういうこと?」
「ミハル、不安でしょ?俺がちゃんと金を返さないんじゃないかって。だから、ちょっとでも返せる時に返しておこうと思ってね」
封筒を見たら、4万入っていた。
「返してくれるの?これ」
「少なくてごめん、残りも必ず返すから」
「うん」
その時なんとなく違和感があったけど、少しでも返済してくれたことがうれしかった。
___やっぱり翔馬は詐欺なんかじゃない
私が好きになった男は、悪い男じゃなかったと確信できてホッとしていた。
「ランチ、行こうか?」
私は返してもらったお金で、少しいいランチを食べようと提案した。
「じゃあ、焼肉が食べたいな」
「わかった。翔馬はこの辺り詳しいでしょ?案内してくれる?」
「いいよ、知ってる店がある」
「ご馳走するね」
「ありがとう、ミハル。最近いいもの食べてないからうれしいよ」
そしてまた抱きしめられた。
「愛してるよ、ミハル。ねぇ、もう一回、ダメ?」
言葉は甘いのに、服を着たまま強引に後ろから入ってきた。
「あ、そんな…ダメ…」
言葉とは裏腹に受け入れる私は、翔馬の“愛してる”にすがっていた。
___お金を返してくれる
100万ほどのうちの4万なのに、安心してしまった。これがどういう意味を持つのか、後日、美和子に言われて初めて知った…。
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