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愛してるの意味
「でも、私のことを愛してるって、頼れるのは私しかいないってだから…」
___愛する人のためにできることはしたいと思うのは、当たり前じゃないの?
そう言いたいのに、言えない。
「ひとつ確認なんだけどさ」
美和子の声が一段低くなった気がして、ドキリとする。
「…は、はい…」
声が震えてしまう。
「ご主人に不満があるって言ってたけどどんな?浮気とか?ギャンブルで借金とか?はたまた暴力?」
改めて訊かれて、考える。
「私のことを女として見てくれてないし。それに少し前から帰りが遅くなって。それもだんだん増えてきて、晩ご飯も食べてきたりするし」
「それって、浮気かも?ってこと?」
「とても遅く帰ってきたりすることもあるし。それまでの残業じゃ、そこまで遅くなることもなかったから、きっと…」
女がいるとしか思えなかった。
「証拠は?浮気の写真とかLINEのやり取りとか、シャワーを浴びて帰ってくるとか…」
「証拠?証拠…、調べたわけじゃないから、そういうものはないです。こっちも詮索されたくないし」
「そっか…。あ、ついでだからもう一つ訊いてもいいかな?答えたくなかったら答えなくていいけど」
「なんですか?」
「ご主人のお給料って減ったの?浮気相手に使ってる気配があるとか?」
「食費や雑費で毎月15万振り込まれてます。それは減ってないし。他の出費のローンとか光熱費は主人が管理してるからわからないけど。督促もきてないから支払ってるはずです」
月に15万もあると少しずつ残っていくから、ある程度まとまったらそれを旅行やイベントにつかったりしている。翔馬に一部を貸してしまったけど、それはここでは言えない。
ふわりと心地いい風が吹いてきた。遠くに川の流れ見えて、ここは気持ちいい。なのに今はそんなことを堪能する余裕がなかった。
「駒井っちのご主人て、すごいね」
「どうして?ってか、知ってるんですか?」
「偶然だけどね、少し知ってる」
アイスコーヒーの氷がほとんど溶けてしまっていた。
「すごいって?どういうことですか?」
「その前に。あのね、愛してる人にお金の無心は絶対しないものよ。だから、駒井っちのそのカレ、駒井っちのことをただのスポンサーくらいにしか思ってない。いや、カモにしか見えていない。だから平気で“愛してる”と言いながらお金を請求してくるんだよ」
___カモ?だから愛してるって言うの?
ショックだった。そんなことを心のどこかで考えることもあったけど、第三者からハッキリと言われると自分の愚かさを思い知らされるようだった。何も答えないでいると、美和子はさらに続けた。
「そしてさ、お金の返済を迫られそうになったら保険として少し返して、訴えられないようにした。おかしいでしょ?2万借りたその場で4万返すって。どうしても返済の事実を作りたかったんだよ。声とか録音されてたりするかもよ」
どくん!
心臓が苦しい。
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