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きっかけ
澪梨のブログを覗いてみた。今日見た限り、あの人は毎日がキラキラしていて楽しそうに見えたから。
記事の内容は、ありきたりのもので何も面白くなかった。新しい靴だったり、美味しい限定ケーキだったり、お出かけした有名ホテルだったり…少し見ただけでお腹いっぱいだ。
___押しておくか…
どうでもいいと思いつつ、義理(?)は果たす。武子が催促してきたサイトにはハルミという名前で登録した。もちろん武子には内緒だ。
ついでに他の人のブログもいくつか見たけど、やっぱり興味が湧かなかった。
___ん、これ、なんだろ?
スクロールするといくつかの広告が出てくるがその中で一つ、気になるものがあった。
“誰にも言えないこと、でも誰かに聞いて欲しいことはありませんか?ここで話してみませんか?完全匿名で気軽に書き込めるサイトです”
パステルカラーの箱庭のようなコメント欄が表示された。注意事項としては、ここに書かれているコメントに対しては誹謗中傷は決してしないことと書かれていた。
“仕事場に嫌なお局がいて、ストレス発散の対象になってます。どうすればいいですか?”
“夫を愛人から取り返したいんだけど”
“お金がなーい!なんとかして!”
“はぁ、色々欲求不満かも”
“仕事がツライ、明日が怖い”
独り言のように、いろんな呟きがある。よく見るとその呟きには返信コメントもある。励ますものだったり諭すものだったり様々だ。
___でも、誰かの返事があるってうれしいかも?
ブログの方はほっといて、こっちのサイトにも登録することにした。名前はもちろん、住んでいるところも性別も年齢も何も登録する必要はない。完全匿名だというところに、安心感が持てる。
何人かのやり取りを見たけど、匿名過ぎて何も分からないからか出会いを求めているような書き込みもない。
ミハル。
ここでの私はミハル。
たくさんの呟きに混じって、一言だけ書き込んでみることにした。
〈毎日がつまらない、何か楽しいことないかなぁ?〉
それはほんの小さな呟きだった。家族にも友達にもそんなことは言ったことがない。
___誰か、何か答えてくれるかな?
たくさんの呟きの中で、私の呟きなんてあっという間に流されてしまうだろう。それでももしかしたら…?ちょっとだけ期待して、その日はサイトを閉じた。
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