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名前
“ミハルさんは、とても素直な女性なんですね。もっと話したくなりました。ご迷惑でなければ、DMを送ってもいいでしょうか?”
___きゃーーっ!なんかモテてる気分!
こんなに気分が上がることが、今までにあったかと過去を思い返してみる。夫に付き合ってほしいと言われた時もプロポーズの時も、こんなにうれしいと思わなかった気がする。
___いや、待て待て。こんなことで浮かれていて、もしも詐欺だったりしたら?
いくら私が寂しがってる主婦だといっても、そんなに簡単に詐欺に遭ったりしない。私は慎重な人間のはず。この男性のことを少し調べてみることにした。
DMとは、直接個人にメッセージを送れる機能のようだ。もちろん個人情報は公開していないので、私はただ『ミハル・主婦』としてしか登録されていない。もしも個人的にメッセージが送られてきても、私が何も教えなければそれでいい。このサイトには日常の写真をアップする機能がついていないのも、安心できる点だった。ブログなどでは写真から個人を特定されることがあると聞いていたから。
香水瓶のアイコンの下には、小さくハンドルネームが表記されている。今までは気にもしていなかったそこを、確認する。
___S・T
イニシャルのようだが、これも本名とは関係ないかもしれない。
___へぇ、たくさんの人とやり取りしてるんだなぁ…
そのS・Tには、たくさんの人がメッセージを送ってそしてS・Tもひとつひとつ丁寧に返信している。具体的な悩みは書いてないけど、それぞれ仕事や家庭の不満のようなものを送って、それにS・Tが答えているようだ。
そこにあるいくつかのやり取りを見ても、詐欺とかおかしな勧誘をしてるようには見受けられない。
___大丈夫みたい
“DMいいですよ”
それだけを返信した。私の他にもDMでのやり取りをしてる人がいるのか、S・Tが他の人とやり取りしてるメッセージをもう一度読み返したけど、そんな書き込みはなかった。
たったそれだけのことにも、心が踊った。
___こんなにたくさんの人とやり取りしてても、DMする人は少ないのかな?
いつもと違う場所に赤いレ点がついた、
『DMあり』のマークだ。
これは私個人へのメッセージなんだと思ったら、開くだけでもドキドキする。
《はじめまして!ミハルさん。DMを受け付けていただき、ありがとうございます。メッセージのやり取りを少ししただけでDMを申し込むなんて、少々図々しいヤツだとお思いでしょうが、何故だかどうしてもミハルさんとお話をしてみたくなりました。これからもよろしくお願いします》
まるでラブレターをもらったみたいで、手が震えた。
〈はじめまして!S・Tさん。私みたいな女に興味を持ってもらってうれしいです。どこにでもいる普通の主婦で面白みもないと思いますが、色々なことをここで話せたらうれしいです〉
《早速のお返事、ありがとうございます。DMなので名前がちゃんとしてないと呼びにくいですよね?ここでは翔馬とお呼びください。誰にも内緒ですが、翔馬は本名です。年齢はおそらくミハルさんより上だと思いますが、ここではざっくばらんにやり取りしたいです》
___えっ!本名を教えてくれるの?私にだけ?
また心が、きゅんとした。こんな感覚が私に残っていたなんて。急いで返信しようとしたら、トイレのドアを叩く音がして、ビクッとする。
「ちょっと、お母さん!トイレ長すぎ!出てよ」
陽菜に急かされ、慌てて出た。
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