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「もっ、もしよかったら、わ…私と付き合ってもらえませんか?」
と言ったが、中学の同級生の小谷祐介は無表情のままだった。
菅原愛理は答えを待つ時間の数秒が何時間にも感じていた。
祐介は微動だにしなかったのに目だけをきょろきょろと動かした。
いたたまれなくなった愛理は
今、返事はいいからとだけどうにか言い、自転車に飛び乗って
家に帰ってきた。
待ってくれていた萌とも口を聞かずに。
萌に告白しろとつつかれたこともあったけど、どうしても今日
言いたくなって、祐介が部活に行く前に校舎裏に呼び出したのだった。
はぁ、なんで今日言わないといけないと思ったんだろう。
もっと良いシチュエーションやなんて言えばいいか策を練ればよかったのか
と思ったものの後の祭りだった。
愛理は大きなため息をついた。
いや、もしかしたら祐介も私のことを好きだったとか…
それならあんな態度は取らないかな。
ぐるぐる、ぐるぐる、ああでもないこうでもないと考えているうちに
夜が明けた。
学校に行きたくないと思ったけど、仮病を使って休むことは負ける気がした
ので、えいっとベッドから抜け出した。
暗い顔をしていてもいけないので、
「おはよう」
といつもより大きな声で言い、教室に入っていった。
すると、教室の前の方で他の子と話していた萌が飛んでやってきた。
「愛理、噂になってるよ。あんたが祐介に告ったって。
あいつ、みんなに自慢げに言ってるみたい」
「えっ?」
最初は言われた意味が分からなかったが、頭の中で"告った告った”が
リフレインされた。
私が告白したことを知っているのは、祐介本人と萌だけ。
萌は言ってないから、祐介が昨晩のうちに他人に言いふらしたことになる。
それだけでもかなりのショックを受けたが、萌の次の言葉に立っているのも
難しいほどの衝撃を受けた。
「なんか、祐介とありさが付き合いだしたらしいの。
それが、一昨日からとか」
「えっ、そんなこと知らない」
愛理は泣きだしそうになるのを我慢して言った。
そうだよね。私だって知ってたら愛理に言ってるしとか言う萌の声を
遠くに感じていた。
動揺した愛理は、冷静になるように大きな深呼吸をした。
私が初めて告白した相手は、すでに付き合っている人がいた。
そして、告白されたことを言いふらしている最低の男。
じんじんと熱い頭の中で、告白の返事を聞く前にフラれてしまったことだけは
鮮明に理解できた。
初めての告白はしゃぼん玉のようにぱちんと割れてしまった。
もう誰かを好きになることはないのかもしれないと愛理は思った。
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