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聡太が小躍りしている。わたしはそれを見て幸せを感じていた。今週末ようやく休みが取れた。聡太が念願していたサファリパークに連れて行ってあげられるのだ。
「よし! じゃあ、みんなで日曜行こうな!」
パンっと手をたたくと、聡太はうひゃほーいとジャンプした。その後ろ、こたつに首元まで埋まった妻がいる。
「芳子、日曜十時には出ようか。中村家初のサファリパーク」
妻の芳子は頭と手だけをこたつ布団から出して器用にスマホをいじっている。
「パパと聡太で行ってきてー。たまには父子水入らずで」
芳子はスマホに映った韓国アイドルを撫でながらそう言った。丸い天板のこたつに埋まる芳子はまるで亀のようだ。
「え、いや、せっかくだし3人で……」
「あたし、いっつもキリン公園とかカバ公園とかに聡太連れて行ってるからっ! サファリパーク行ってるようなもんだからっ! 観たいテレビあるからっ!」
亀と化した芳子が選挙戦のような大声で言い放った。圧倒的な声量で相手に有無を言わせない断固たる意思を感じる。内容はめちゃくちゃである。本音は最後の韓国ドラマを観たいだけなのだろう。
「じゃあ、パパいこー」
聡太は気にせずわたしに抱きついてきた。まあ、仕方ない。仕事が忙しくて、芳子に負担もかけている。たまには父子だけでお出かけしよう。
わたしは日曜に向けて聡太と動物のお勉強をし、サファリパークを楽しみに待つことにした。
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