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草食動物ゾーンでさすまたを失ったわたしは、この爬虫類ゾーンにいるうちに打開策を練らなければと焦っていた。爬虫類ゾーンの次は猛獣ゾーンなのだ。
目の前に人工の川が広がっている。川がキラキラと太陽を反射している。
うわあ。
聡太が感銘の表情を浮かべている。オープンカーは水辺ギリギリに寄っていく。何十頭いるだろうか。ワニが寝そべるように動かず太陽を浴びていた。
基本、ワニはゆっくりとしていて動かない動物だ。近寄ろうが刺激さえしなければ大丈夫。わたしは車内で武器になりそうなものを探していた。
「パパー、ワニさんすっごい近い!」
「うんうん、刺激しなけりゃ怖くないからねー」
わたしが助手席をまさぐっていたときのことだった。けたたましい叫び声が我が息子から放たれたのだ。
「ガオーーーー!!!」
ワニが一斉に寝そべるのをやめて鋭い目をこちらに向けた。
「ワ、ワ、ワニに向かってガオーなんて言っちゃだめって幼稚園で習ったでしょ!!」
そんな授業はない。アフリカか南米奥地であるかないかだ。幼稚園で聡太がそんなこと習っているわけがない。
わたしは、パパは、今、絶賛混乱中なのである。
聡太のガオーに反応した一匹が近づいてきた。でかいワニだ。牙が大きな口からはみ出している。
ピンチ。
ワニワニパニック。
わたしはありとあらゆるポケットを探り、ハンカチを探し当てた。めちゃ赤い。この真紅のハンカチは目立つはず。
紅だあぁァァァ!
若き日のカラオケ以来のシャウトである。
イチかバチか接近するワニにハンカチを投げると、紅のハンカチめがけてワニが飛びついた。ビンゴー!
ワニは紅のハンカチに夢中だ。逃げろ、逃げるんだオープンカー!
ふうぅぅ。
冷や汗が額と背中に流れる。
ワニはまだハンカチと戦っている。
難を逃れたが、もうポケットにはスマホしか残っていない。目の前の鉄柵が開き、ついに姿を現した。
『猛獣ゾーン』
いや、待てよ。スマホがあるじゃないか。
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