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猛獣ゾーンに入った途端、どこからともなく猛獣の唸り声が聞こえてきた。
ふと、前方の木陰を見ると、ライオンが数頭こちらを警戒するように睨んでいた。まだ寝そべっているがワニより反応は早いだろう。
天真爛漫の聡太が珍しく怯える仕草をした。
「パパぁ、ちょっとぼく、怖くなってきたよう」
ここは父親がしっかり安心させてあげなければ。
「いざとなったらパパがライオン倒してあげるから大丈夫だ!」
「ライオンなんて百獣の王なんだよ。倒せないよ」
「大丈夫、パパは武井壮の動画も観てたから」
「たけいそうって?」
「ごめん、聡太。今は武井壮について説明してる時間がないんだ。説明に時間を要する人物なんだ」
「ねえねえ、たけいそうって?」
「ライオン目の前ノーガード状態で説明できる人じゃないんだっ!」
「たけいそうっ! うわーん、たけいそう知りたいっ! うわあぁぁぁん!」
ライオンがぴくりと反応し、寝そべっていた腰を上げた。まずい。聡太の泣き声に獅子の本能が反応している。これ以上泣かすわけにはいかない。
「素人1位! 素人1位が武井壮だ!」
「分かったー! たけいそう分かったー!」
人間、やる気になれば武井壮を4文字で表すことができる。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
目の前に低い姿勢でライオンが迫ってきていたのだ。
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