週末のジュラシックパーク

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 猛獣ゾーンに入った途端、どこからともなく猛獣の唸り声が聞こえてきた。  ふと、前方の木陰を見ると、ライオンが数頭こちらを警戒するように睨んでいた。まだ寝そべっているがワニより反応は早いだろう。  天真爛漫の聡太が珍しく怯える仕草をした。 「パパぁ、ちょっとぼく、怖くなってきたよう」  ここは父親がしっかり安心させてあげなければ。 「いざとなったらパパがライオン倒してあげるから大丈夫だ!」 「ライオンなんて百獣の王なんだよ。倒せないよ」 「大丈夫、パパは武井壮の動画も観てたから」 「たけいそうって?」 「ごめん、聡太。今は武井壮について説明してる時間がないんだ。説明に時間を要する人物なんだ」 「ねえねえ、たけいそうって?」 「ライオン目の前ノーガード状態で説明できる人じゃないんだっ!」 「たけいそうっ! うわーん、たけいそう知りたいっ! うわあぁぁぁん!」  ライオンがぴくりと反応し、寝そべっていた腰を上げた。まずい。聡太の泣き声に獅子の本能が反応している。これ以上泣かすわけにはいかない。 「素人1位! 素人1位が武井壮だ!」 「分かったー! たけいそう分かったー!」  人間、やる気になれば武井壮を4文字で表すことができる。  いや、そんなこと言ってる場合じゃない。  目の前に低い姿勢でライオンが迫ってきていたのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加