水無月

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夕方まで降り続いた雨が嘘のように晴れ、繊細な光を放つ星々が夜空を彩っている深夜0時。しんと静まった空気と重なり合うように、ミチルは自室の窓をゆっくり開けて夜空を見上げた。 「やっぱり今日も月が味方してくれているみたい。梅雨時期だから心配していたけれど、これなら今夜もお店をオープンできるわ」  室内を少しずつ満たしていく夏特有の雨上がりの匂いを感じながら、アラタは庭に咲いている雫に覆われた紫陽花を見た。 「いつも通りお父さんも寝ているみたいだし、急いで準備しよう。テーブルや椅子が濡れているだろうから、俺タオル持っていくよ」 「やっぱりテントか何か、雨よけを用意したほうが良さそうだね。今度、達規(たつき)に頼んでみようかしら……まぁそれはさておき。私は水晶を持ったし、あとは携帯を持てば準備OKかな。あ、お母さんの写真は持った?」  タオルを探すため洗面所へ行こうとしていたアラタは足を止め、黒いシャツの胸ポケットから携帯電話をチラつかせた。 「母さんの写真、携帯で撮って保存しておいた。先月みたいに一番大切なものを忘れるのは癪だし」 「ほんと、先月はお客様も増えてきて情報を集めるチャンスだったのに二人して写真を忘れるなんてね。ふふ、オープンしてから約二ヶ月か……今日も沢山のお客様来てくれるかな」  出発の準備を手慣れたようにすすめているミチルとアラタは、自分達にとって初めての店『デュミ・リューヌ』をオープンした日を思い返していた。
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