一夜の夢だとしても

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 「お待たせ、行こっか」  悠太は車のエンジンをかける。父親と同じ車。水平対向エンジンがどうたらこうたらと話していたのを思い出す。  「30分もあれば着くかな」  「そうだね、到着時間は15時になってるよ」    悠太の車に乗るのは久しぶり。ふたりっきりは初めてだ。住んでいる場所によっては車がなくても暮らせるので、吹奏楽メンバーででかけるときは、車を持っているわたしと悠太が車を出すことがほとんど。  心地よいエンジン音につつまれて、悠太の車は郊外へと向かう。  「そこの信号越えたら左ね」  「なんもないとこだな」  「静かでいいところって言ってよ」  「ごめんごめん、静かでいいところ」  「あの白い家」  「えーっ!!!! お城じゃん!!」  前の家主さんが、こだわって建てたという3階建ての家は、白亜のギリシャ風デザインの輸入住宅。この家がなぜこの価格!? というくらいの破格だったのは、早く売ってしまいたい理由があったらしい。  畑や田んぼの真ん中に立つ白亜の輸入住宅。わかりやすくて車が止めやすいところというのも条件にしていた。駐車場は6台分、家の前の道はほとんど車は通らない。ちょっとさみしいといえばさみしいけど、自分としては大満足している。  
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