一夜の夢だとしても

22/22
7744人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
 「悠太、手つなご?」  「えっ、てててっ、手!?」  「いいじゃん」  「うん……」  「ちゃんと、恋人つなぎしよ」  顔を真っ赤にした悠太を覗き込む。かわいー。ほんと好き。  そっと指を絡ませると胸が鳴る。あたたかい。喉から手が出るほど欲しかった幸せが、いまここにある。  傾きかけた夕日が、街や、畑や刈り取りの終わった田んぼをオレンジ色に染める。高くなった秋の空を、トンボが気持ちよさそうに飛んでいく。  2人の時間が、少しでもしあわせな時間になるよう努力したい。  田んぼの脇をふたりであるきながら、徒歩20分のコンビニへ向かう。  前から付き合ってたみたい。そんな錯覚をするくらい穏やかでやさしい時間。  コンビニで食後のスイーツを買い、もときた道とは違う道で家路に着く。  「いいところだな、ほんと」  「でしょ?」  「きょう、晩ごはん何にする?」  「うーん、冷蔵庫に豚バラはあるけど……」  「いいね、味噌マヨ焼きやろっか? 俺作るよ」  「なんか、カロリー高そうだね」  「味は保証するよ? さ、急ごう! 暗くなってきたし」    つないだ手を強く握り直して、ふたりで走っていく。とくとくと小さく胸がときめいた。ずっとこの時間が続いてくれたらいいのにな。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!