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同棲初夜
バタバタと家に帰ってきて、さっそく夕飯の支度に取りかかる。
「なんかキッチンもすごいな」
「大理石だからね」
「包丁どこ?」
「それはこっち、フライパンはここね」
ふたりでキッチンに立つ日が来るなんて思っても見なかった。穏やかな悠太の声を聞きながら、わたしはサラダを作る。
なれた手つきでフライパンを煽る悠太。料理、得意なのかな。あのワンルームのキッチンじゃ、そんなに凝った料理はできなさそうだったけど。
「なに? じっと見て」
「いや、料理が上手いなんて知らなかったから」
「まあ、基本は自炊してたよ」
はい、できた。とフライパンからお皿にみそマヨ焼きを移した悠太。いい匂いがたちこめてお腹が鳴った。
「ご飯も炊けたし、食べよっか」
「俺の食器ある?」
「あるよ。お客さま用が。あしたにでも買いに行ってくるね。お揃いの食器とか夢だったんだ」
いまいち掴めない契約結婚だけれど、スタートとしてはいいんじゃないだろうか。うれしいし、安心するし、心は穏やかだ。
悠太はどう思ってるんだろう。朱音のこと、忘れようとしてるのかな。だとしても、わたしのことは好きじゃないと思うから、考えても仕方ないか。
それでも、好きになってもらえるよう努力はしたい。いや、全力で行くよ。好きになってもらえるように。
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