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じんわりと、熱を感じる。
体を包み込む、九つの尾。
助けてなんていらない。
俺はお前が大嫌いだ。
…いや、違う。
お前を受け入れている俺自身が、大嫌いだ。
「う…」
身を捩れば、身体中に剣を刺されたような痛みが走る。
目を開くこともままならず、枯れた喉から押し出された声だけが微かに漏れる。
口の中に広がる血の味に記憶を辿り、ラシウスはやっと遺跡の底へ落とされたことを思い出した。
「う…はぁ、生…きてる」
渾身の力で仰向けになると両手を広げて息を乱す。
生きてる、とは言えないだろう。
自分はもう間も無くここで力尽き、果てるのだから。
指一本と動かさなければ痛みは然程気にならない。
完全に麻痺した痛覚より、今は強烈に喉が干上がっている。
しばらく意識朦朧としていると、暗闇の中から金属を引きずるような音がした。
不気味な音はゆっくり近づき、ラシウスのすぐそばでぴたりと止まる。
ぼやける視界に割り込んなのは、濁り沼のように燻んだ双眸だった。
反応もできずにいると、大きな目は何度か瞬きをしてから消えた。
代わりにポタリと頬に冷たい水が落ちた。
口元にひんやりとした石が当たり、その窪みから控えめに水が流れ込んでくる。
何よりも欲していた潤いに、喉が歓喜の音を立てた。
ラシウスはやっと意識がまともに浮上すると、水を与えてくれた手を見つめた。
痩せた上に、傷だらけな手だ。
骨が浮くほど線が細い。
伸びっぱなしの黒髪は肩で揺れ、濁った瞳が瞬いている。
布を腰元で縛っただけの簡素な服には小さな体が包まれていた。
(悪魔の、子…)
恐らく間違いではない。
その子どもは、水がなくなるとまた剣を引き摺りながら闇の中へと消えた。
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