忘却の遺跡コン・バルン

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それから何時間眠り続けていたのだろうか。 時折薄く意識が戻っても、痛みと疲労にまた暗闇に迎え入れられる。 その度にあの子どもの姿を見かけた気がするが、殺そうとした相手に生かされているのかと皮肉な思いだけが胸に残った。 時間感覚などとっくに失ったが、はっきり意識が戻ったのは間違いなく夜も深い頃だ。 石の壁には深夜にしか光らない光苔が蛍光色に辺りを染めていたからだ。 指先、拳、肘と、順に動く事を確かめ、ラシウスは無理矢理上半身を起こした。 「うぐ、は、はぁ、はぁ…」 「無理はしない方がいいよ」 急に声をかけられ弾けたように顔を上げる。 反動で身体中が軋んだが、手は無意識に腰の刀に触れた。 目を凝らせば、瓦礫の上に腰掛けた人が立ち上がる様子が見てとれた。 「やぁ、また会ったね。どうやらカラはきみを食すより生かすことを選んだようだ」 にこやかに近付いて来るのは、ラシウスを橋から突き落とした青年だった。 大きい目が童顔に見せているが、碧眼に浮かぶ光の強さは幼くなどない。 泣きながら助けを求めていたのが嘘のように、青年は優雅に微笑んだ。 「君もカラの食料にしてあげようと思ったけれど、まさか彼が君を生かすなんてね」 「…お前は、何者なんだ」 「僕はゼナ。この遺跡の住人だよ」 軽快に答えるも必要な情報が足りなさすぎる。 体が動けばすぐにでも締め上げたい衝動に駆られたが、今のラシウスに出来るのは精一杯睨みつけるだけだ。 ゼナは左手に持つ長い棒の先をラシウスに向けた。 「ふふ。もどかしそうだね。でも今は教えてあげない。知りたければまず体を回復させることだ。まぁ突き落とした僕が言うのもなんだけど」 回復も何も、こんな地の底で転がっていては迫るのは冥府の門ばかりだ。 目を伏せたラシウスからその意を汲み取ったのか、ゼナはいっそ優しく言った。 「大丈夫だよ。きっとカラが助けてくれる」 「カラ?」 「君たちが言う、悪魔の子だ。まぁあの子からすれば悪魔は君たちなんだろうけど」 「どういうことだ」 「さぁね。あ、言っておくけどカラは喋れないから何を聞いても無駄だよ。それに君を“食料”と判断した時は諦めて食われてくれたまえ」 物騒な忠告を残し、ゼナは闇の向こうへと消えていった。
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