19人が本棚に入れています
本棚に追加
レイドは青年から手を離すと苛立たしげに頭をかいた。
「なんて事だよ、こんちくしょうめ」
勅命は遂行しなければ法に殺される。
悪魔を殺すことだけが、ラシウスが唯一生き残れる手段なのだ。
「おい、お前。名は何と言う」
「僕ですか?」
凄むように言われ、青年は躊躇いながら顔を上げた。
「…ゼナ」
「よし、ゼナ。お前の言いたいことは分かった。だがな、こっちにもちょっとばかり事情ってのがあるんだ」
ゼナは左手に持った、杖にしては長すぎる棒をトンと地面についた。
「何を聞いても僕の意見は変わりませんよ?」
「まぁ待て。人生白か黒で片付けられん事もある。ラスに何があったのかは分からんが、あいつが動けるようになるまでにこっちも打つ手を考える。だから…」
レイドは真摯な目で青年を見つめた。
「ゼナ、それまではお前が俺の相談に乗ってくれないか」
「はぁ?」
予想外の頼みに、ゼナの目が丸く開く。
次いで盛大に吹き出した。
「あはははっ。あぁ驚いた。まさかそうくるなんて、おかしな人だ」
「俺は大真面目だぞ」
「言いたいことは分かりますよ。彼の…ラシウスの為に僕と繋がっておきたいのでしょう?」
「ぬ…」
図星を突かれたレイドが気まずそうに無精髭を撫でる。
ゼナは顔の大半を隠すフードを取ると、困り顔の大男を見上げた。
「いいでしょう。彼が回復するまで、定期的に貴方に会いに来てあげます」
「本当か!!」
「はい。それがラシウスへの詫びということで」
「詫び?」
「こちらの話です」
優しく細められた碧眼を、柔らかな金髪が縁取る。
身なりさえ整えれば貴族階級にいても不思議ではない青年に、レイドは更に疑惑の念を持った。
「お前は、一体…」
ゼナは人差し指を唇に当てるだけで全ての詮索を跳ね除ける。
なんとも不思議な青年だ。
雲をつかむような思いだが、レイドは腹を括りゼナを信じることにした。
最初のコメントを投稿しよう!