不思議な青年

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レイドは青年から手を離すと苛立たしげに頭をかいた。 「なんて事だよ、こんちくしょうめ」 勅命は遂行しなければ法に殺される。 悪魔を殺すことだけが、ラシウスが唯一生き残れる手段なのだ。 「おい、お前。名は何と言う」 「僕ですか?」 凄むように言われ、青年は躊躇いながら顔を上げた。 「…ゼナ」 「よし、ゼナ。お前の言いたいことは分かった。だがな、こっちにもちょっとばかり事情ってのがあるんだ」 ゼナは左手に持った、杖にしては長すぎる棒をトンと地面についた。 「何を聞いても僕の意見は変わりませんよ?」 「まぁ待て。人生白か黒で片付けられん事もある。ラスに何があったのかは分からんが、あいつが動けるようになるまでにこっちも打つ手を考える。だから…」 レイドは真摯な目で青年を見つめた。 「ゼナ、それまではお前が俺の相談に乗ってくれないか」 「はぁ?」 予想外の頼みに、ゼナの目が丸く開く。 次いで盛大に吹き出した。 「あはははっ。あぁ驚いた。まさかそうくるなんて、おかしな人だ」 「俺は大真面目だぞ」 「言いたいことは分かりますよ。彼の…ラシウスの為に僕と繋がっておきたいのでしょう?」 「ぬ…」 図星を突かれたレイドが気まずそうに無精髭を撫でる。 ゼナは顔の大半を隠すフードを取ると、困り顔の大男を見上げた。 「いいでしょう。彼が回復するまで、定期的に貴方に会いに来てあげます」 「本当か!!」 「はい。それがラシウスへの詫びということで」 「詫び?」 「こちらの話です」 優しく細められた碧眼を、柔らかな金髪が縁取る。 身なりさえ整えれば貴族階級にいても不思議ではない青年に、レイドは更に疑惑の念を持った。 「お前は、一体…」 ゼナは人差し指を唇に当てるだけで全ての詮索を跳ね除ける。 なんとも不思議な青年だ。 雲をつかむような思いだが、レイドは腹を括りゼナを信じることにした。
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