従騎士ラシウス

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どれだけ周りが見惚れても、ラシウスはびくともしなかった。 むしろ瞳に浮かぶのは仄かな嫌悪だ。 レイドは彼が本格的な不機嫌に陥らぬよう、さっさと話を進めた。 「俺たちはわけあってその悪魔を探している。何でもいいから知ってる事を教えてくれないか」 すっかりラシウスに目を奪われていたリュカは、のろのろとレイドに向き直った。 「あの…、その子のことは、私たちもよく分からないんです」 「見た目や特徴は?」 「え…と、とても小さな子どもでした」 少女はやや言葉に乏しいのか、これでは中々有力な情報が得られないだろう。 レイドは質問の仕方を具体的に変えた。 「髪や瞳、肌の色は?」 「髪は確か黒かったような…。目はなんだか濁っていて、肌は…ごめんなさい。赤い色しか思い出せないわ」 鮮明に浮かぶのは血飛沫、血溜まり、そして血染めの長剣。 まざまざと思い出した少女は、ひとつ身震いすると荒野の先を指差した。 「悪魔の子は死体を引き摺ってあっちへ消えました。噂では荒野の遺跡に寝ぐらを持つとか…」 ラシウスが小さな指先に視線を這わせると、リュカは真っ赤になり慌てて手を引っ込めた。 レイドは気さくな笑みで立ち上がり、がっしりとした己の腰に手を添えた。 「なるほど、これで行き先が定まった。お嬢ちゃんありがとよ」 「いえ、あの…。本当に悪魔の子を探すつもりですか?」 「ん?ああ、そうだ」 「ではもし会うことが出来たら、あの、ありがとうとだけ伝えてもらってもいいですか?」 「ありがとう?」 意外すぎる言葉に面食らう。 リュカは胸を上下し、改まった小声で言った。 「理由が何であれ、わたしはその子のおかげで命を救われたので」 「…そうか」 騎士団の者が悪魔を探している。 頭を一巡りさせれば、その目的など安易に想像がつくはずだ。 自分を助けてくれた男にすっかり安堵したのか、はたまた見目麗しい青年に思考回路が鈍ったのか、少女は信頼を寄せて微笑みかけてくる。 レイドは勿論余計な事など口にせず、笑顔を返しながら心得たと胸を叩いた。
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