出会う

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とてもシンプルなフレンチトーストが2枚と、その横にはカットされたフルーツがカラフルに乗ったプレート。聖さんは私の方へプレートを置くと紅茶のサーバーを揺らさないように自分の前に引き寄せた。そして、美味しい時を逃さないというように透明なサーバーを見つめる彼は、今このプレートに興味が無さそうだ。 フレンチトーストの甘い香りが私の鼻をくすぐる。昨日の夕方、何とか一つ食べた残り物の小さなロールパンとは大違いだと思った時には 「…ぃただきます」 小さく手を合わせていた。聖さんはチラッと私を見て微笑んだだけですぐに紅茶とにらめっこを再開する。私はナイフとフォークを持ちフレンチトーストの端を小さな三角に切ると、そっと口に入れた。 美味しい…舌で感じる前に口の中に広がる甘くて温かくて柔らかい食感が私の食欲ではなく涙腺を刺激する。視界に綺麗な色の紅茶が入ったカップが置かれたことで涙は生産されずに済みホッとした。 「ミルクも温かいよ。よかったら入れて」 カップの隣に陶器のミルクピッチャーが置かれ、彼はミルクを使わず紅茶を口にした…私のためのミルク…
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