第六章 - 家路 -

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第六章 - 家路 -

AM10:58 キュシューッ…… キシューッドッドッド ピロポロンッ ピロポロンッ "終点、東京ぅー東京ぅー、 お忘れ物のない様お気を付けて 降車願いまーす" シュスーッ…… ガッシャン プシューーーッ 「着いたぁーッ 5年ぶりかな?我がドリームTOKIO 」 今日はチャットルームのオフ会で上京した、 オフ会デビューの日なのだ。 久しぶりの東京、相変わらず雲が多い都会の空だ、東京人は死ぬまでに青空を見た事があるのだろうか? そして、人、人、人…… その風景の一部にボクも居る。 コレが東京、田舎者のボクには懐かしい所なんだ。 20歳の頃まで、よく上京してレコードやCD、バンドTシャツなんかを買いに来た。 音楽専門誌の広告ページに唆られてよく買い物に来ていた。通信販売も利用していたが、やはり現地で買う刺激と満足感は郵送されるパッケージで届く物とは比べ物にはならないからな。 よく来ていたのは西新宿、マニアックで最新音楽の宝庫みたいなショップがズラズラと並んでいたからだ。 他にも、池袋やお茶の水にも沢山レコードショップがある。 もちろん楽器店にも足を運んだ、こう見えてもギターは中3からやっているんだ。 高い買い物になってしまう前に滞在時間は少しだけにしてる、田舎にも楽器屋ならあるし。本当に買いたかったら何時間も悩んで彷徨いているだろう。 「さぁ、お次は〇〇へ頼むよ!」 山手線や中央線はボクの脚となり、お抱え運転手を持つボクの到着駅まで文句も言わず急いで送ってくれる。 ただ、冬場の暖房ムンムンする車内は好きではなかった。帰宅すると必ず喉をやられていたからだった。それも恒例となり、お土産の様に上京した感があるしもう慣れてしまった、悪い慣れ方だな。 上京デビューは16歳の時、 「おーい、今度東京行くけど付いて来る?」 と、突然姉に無理矢理に連れてこられた原宿だった。女っ気が無いのを見て居られずか、騙されて美容院へ行かされパーマをかけられた屈辱的とも言える嫌な思い出がある。それまで長髪目指して伸ばしっぱなしにして少しは自分で整えてカットして居たのに。でもこの歳で、自分の好きな髪型と似合う髪型とは違う事を教えられた良い機会だった、5つ歳上の姉は感性の師匠だ。 そして、生活の中に哲学も学べる。 幼少期にはよくいじめられて居たが、いざとなればこうして可愛がってくれて居た。 ボクにとっての初上京、原宿を隈なく案内してくれた。記念にと、路上販売の安物の腕時計を二つも買ってしまった。ちょっとした姉弟の修学旅行みたいだったのかな? あの数時間は、まだ消えない記憶として残っている。 それから10代後半の頃はスケボーにハマり、歩行者天国へ見物客として来ていた。 ショップ巡りも足が棒になるまで歩いたりスケボーでプッシュして移動した。 裏原なんて流行る前から知っている、とても良いエリアにある。田舎にもこんな通りが欲しいなーと何度も思ったことがある。 「さぁ、今日は少し変わった場所へ行こうかなぁー」 と、中央線乗り換え改札口を目指す。 向かって来た方角を、逆戻る事になるが。 ガタンガタンッ…… "次はー高円寺ぃー高円寺です、 お降りの方はお出口右側となります、 脚元にお気をつけてぇお降り下さいっ" 初高円寺だ。 バンドTシャツのショップがある、そこが目的地だ。ボクの田舎とは違う賑わった商店街をすり抜け裏道を入って直ぐに、それほど高くない雑居ビルの3階に向かった。 それらしい音楽が音量高らかに鳴り響いた入り口が迎えてくれた。 凄い数だ…… 客も数人、カウンターにはグリーン頭の店員さん。皆、上半身は確認出来るがそれより下は衣類の波で見えやしない。 ほぼ真っ黒な水面に上半身浴をしに来た様だ。ココから欲しいバンドの物を探し出すのは至難の業、アルファベットがハンガースタンドに掛けてある、助かったぁ…… 何とかお目当てのバンドを探し出せた。窓際の一角には安物セールの札のハンガーがあった。流行り廃りの少し難ありの物、色褪せや穴空きの物が格安で掛けてある。 計3枚買い、ショップを出る事にした…… PM1:45 「あ、もうこんな時間かぁー」 滞在時間2時間弱。 久しぶりの東京なので、行き足りない所ばかりだけど移動時間も必要である。 また来た方向へ戻る事に、駅の改札切符売り場でオフ会をする現地の有楽町までを買う。 「何で会場が有楽町なんだろ?」 告知を見てから不思議に思っていたけど、どうやら招集した幹事さんの地元らしい。 帰りは東京駅近くだからすんなりと帰れるから良いけどさ。 まぁ、人の決めた事だぁー素直に従う事にしようっと。 足が言うことをきかなくなっていた、と思ったら昼メシがまだだった事に気付く。 駅を降り、少し混み合ったガード下の立ち食い蕎麦屋を見つけて軽く食べる事にした。 食券で1番安いかけ蕎麦を選ぶ、ガッチン! 「かけそば一丁!」 都会の戦場に、スーツ姿の戦士たちに紛れてカウンターに肘をかけて待つ事2分、 「ヘイお待ちぃーかけ蕎麦ネーッ!」早ッ 箸も水もセルフで用意する間もなく、慌てて喰らう。すると端っこから、 「ご馳走様ぁ〜!」と女性の声。戦士は男達ばかりではなかった、女達へも戦場に挽歌を胸にありがたく都会の味を噛み締めた時間となった。 PM1:55 歩き慣れない有楽町。 見る所も限られて、少し飽きたので移動する事にした。オフ会開始時刻は午後5時30分、まだまだ時間がある。 「そうだ!お茶の水へ行こうー あの楽器屋ってまだあんのかなぁ?」 有楽町を後に、東京駅へ向かいそこから中央線でお茶の水へ行こうとして歩いていると、 「おーい、マー君? あ、やっぱりマー君じゃねぇーかぁー!」 信号待ちしていると反対側の路肩に停めてあるトラックから声がした。 「お?おっヨッシーじゃん! ちと待って、そっち行くよー」 信号待ちしていたが変わりはじめて、2回青になるのを待って向こうのトラックのもとへ小走りに向かった。 「久しぶりだなぁー元気そうじゃん!」 「あーマー君もなぁー、 3年ぶりかな?学生でまだバイトしてる頃だったからねー、 アッそれと助手も居るよ?」 「ん?」 と助手席を覗き込むと、 「アッ!ゆー子さんじゃん、 何でココに?しかもヨッシーのトラックへ?!」 ボクは訳がわからなかった。 ヨッシー…… 梅谷芳人くんは、大学生の時にHIROの店、ゆー子さんの会社まで東京からボクら田舎町まで食材を運ぶトラック助手のアルバイトをやっていた。 月に何度か、便と時間が同じになる時にお店へバイト途中に寄っていたからよく会話はして居た。このご時世、就職難だから免許を取って、バイト先へそのまま就職したらしい事はゆー子さんから聞いていた。 いつもは、東京で有名な焼肉店寿寿苑の店舗へ配達回りと店員をしていると言う。 「それにしても、ゆー子さん? 何でココへ?しかも、ヨッシーと一緒にトラックで?!」 「こんにちは、元気そうねマー君。 HIROから話しは聞いてると思うけど、 この有楽町の駅ビルに騙した奴が居るって聞いて、たまたまHIROの店に臨時便の配達に来たヨッシーに乗っけてもらったの…… 」 それからの話は、やっぱりゆー子さんを騙して権利書を持ち逃げした奴は駅近くのビルに滞在していたのを見つけ、目的の物を返してもらった後だったらしい、それにしても上京して大捕物するとは、流石女社長ゆー子さんである。哲矢ではないけどこれでは惚れる男性も多いのは納得だな。 「そうかぁー、 じゃあ気を付けてお送りしてなヨッシー!」 「あー任しておけぇーじゃあね!」 「うん、また呑もうねぇー ゆー子さーん!帰ったら祝杯だねッ バイバーイ!」 相当な田舎者だったんだろう、ジロジロ見ながら通り過ぎる都会の人間を気にして、ボクは道向こうの駅へ向かい歩いた。 PM5:20 お茶の水も久しぶりに堪能できた、楽器店主は代わっていたが店内はあの時のまま。ビンテージのめっちゃ高いギターも売れずにまだ番人をして飾られていた。 懐旧の思いでまた有楽町へ戻ってきた、集合時刻前で場所のカラオケ店前のには何人か集まっていた。チャットとは別にメールでやり取りしていた人の顔を見つけ声をかけて、幹事もオフでは初対面なのでそれぞれ自己紹介して店内へ入った。 時間を5分遅れて到着したナナコちゃんにも会えた、メールと同じ女の子だった、やっぱり実物は可愛いなぁーヘヘヘッ この日のオフ会で、田舎からの参加者はボク1人。駅の改札まで参加者皆んなでお見送りしてくれた、チャット同様でいい奴ばかりだ、とても別れを惜しんだ。 カラオケの後の二次会で少し予定時間オーバーしてしまい慌てて東京駅へ向かう。 最終まであと数本の新幹線、こだまとひかりが停車していたのでそのままひかりへ乗る事に…… 「あーやっぱり良いよなぁー ドリームTOKIO、また来ようっと!」 "〜行きぃー発車致しまーす" プシュー……ゴトンッ ヒューーーンッ…… 「はぁー、疲れたな。 地元着いたらHIROっち店にでも寄ろうかなぁー」 "本日もJRをご利用下さりありがとうございます、PM10:15発881号ひかり名古屋行き快速特急へご乗車ありがとうございます……" 「快速特急……の、ひかり……? 待てよ、コレ地元駅停まるだろうなぁーッ?!」 やっちまった。 停車するのは、地元手前の熱海と終着駅の名古屋しか停まらない…… 「あ地元だぁー あぁーHIROっち店が見えるぅー ゆー子さぁーん……助けてぇー」 仕方ないので、名古屋駅で降り駅員に説明してそのまま地元まで折り返しのとんぼ帰りした。 東京駅から地元までかかった時間は2時間半、着いてもHIROのお店は閉まっていた。 やれやれ、家へ帰ろう……
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