第一章 - 腐れ縁 -

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第一章 - 腐れ縁 -

これはその昔、今みたいなインターネットにつなぎ放題など無い時代の物語である…… 現在、我々の生活には欠かせない必需品となっている"スマホ"というコミニケーションツールがある。 『えッ!ツール?』※大衆からの声 あっ、スマートフォンなんだから元々は電話だったかな?これは失敬。 今更なんだが、スマホって電話なんだよね? この代物、最近電話としてはあまり使っていない気がするんだが…… まぁ気のせいか! もう今となっては"ハンディパソコン"とでも言うべきだな、恐ろしい時代になったよ old school世代には。 携帯電話とも言わなくなって"ガラケー"とか言って全く違う物体、ウエポンみたいな呼称だよな。 現在の若い世代は"ポケベル"も知らんだろうに…… わたしたち世代は、ポケベルからガラケーデビューした時は感動して、初コールと称して用事も無いあまり親しくない友人にかけた経験が甦る、懐かしいなぁー 「あ、もしもし! 携帯電話買った…… それだけ、じゃあね!」ピッ もう一方的なイタ電である。 電話料金はプランなんて無い従量制ってやつで、公衆電話並みに何秒10円って世界だった。 『公衆電話……? あー たまに街中で見かけるレアなガラスケースに入って電話出来るやつね!』 あぁ…… まぁ…… ハズレでは無いけれど…… 恐ろしく悲しい時代だな、今って。 時は今から25年前…… 時系列の話は得意では無いけれど、 現在に繋がる時間が、あの時にはあったんだよな。 『へぇー……パソコン? パソコンかぁ〜 そうだよ、パソコンだッ!』 周りの人たち、友人や会社の同僚たちは毎日躍起に話して騒いで居た。世間は四六時中、テレビやラジオで話題に取り上げていて新しい時代だと便利さを売りにばら撒いていた。 その時のボクは25歳だった…… 丁度、2年間同棲していた彼女と別れたばかりでまだ有耶無耶で未練タラタラ、気持ちの整理も出来ないままこれから先の人生は何をして、何を生き甲斐に生きていけば良いのか?と我なりの重い悩みを抱えて過ごしていた最中だった。 娯楽や趣味は無い訳では無かったけれど、正直言ってその重い悩みが頭の中を人工衛星みたいにクルクルと一昼夜休まず軌道を描き、遠心力に任されて足が浮き、なかなか落ち着かなくて趣味なんて手付かずだったから、数週間はボーッと半ば放心状態で過ごしていた。 週に一・二度、必ず訪れる腐れ縁の悪友が居て、引っ越して来たボクが小学校へ転入した時にたまたま同じクラスの隣の席のコイツが、初日から自宅へ遊びに来ていつの間にか連んで時は過ぎ、親友となっていたのがこの哲矢だ。 典型的なB型は、新し物好きの珍し物好きで、世間が騒いでいるのを放っておく訳がない彼の様子を強く感じていた。 哲矢の家には既にパソコンがありMac遣いだった。彼の家に遊びに行った時、その近未来箱型の物体のカッコ良さには憧れていたが、家庭用ゲーム機しか知らなかった自分には触る事すら怖い程、近寄れない代物だ。 "もし、壊したら…… 絶対に直せないだろうな…… " それがパソコンと言う得体の知れないけど面白そうな何かの役に立ちそうな物体の印象でしかなかった。 うんちく雑学物知り興味津々の哲矢、今日は今週何度かの訪問日…… 「なぁ、買う気になったか?」 「うーん…… まだ、品定めの段階だなー スペック言われてもピンとこないし」 「早くしないと時代に乗り遅れるぞ?」 「お前は何でも先取りし過ぎるの!」 「いや、オレが普通だろ?」 「いや、急ぎ過ぎるっちゅうの!」 「まぁ、いずれは必要な物だからなー これからの時代は!」 「初パソコンは念入りに!だよ、 もう少し待ってろよ、な?」 「そか、じゃあコレお土産に置いとくわ」 「おーサンキュー! 今度HIROっち店で飯おごるわー」 「お、良いねー 久しぶりに呑みたいねー」 「酒代は自腹だかんな!」 「はいはい、じゃあ帰るわー またな!」 「あいよー土産サンクス! よく吟味させてもらうなー」 哲矢はこの日、最新パソコン専門誌を何冊かボクの家に置いていった。 Macは持っているが、今回のWindowsパソコンも哲矢は狙っていそうな勢いだった。 ボクが転入初日に哲矢が家に遊びに連れてきたきっかけは、哲矢が欲しくても持っていなかった小型LCDゲーム機をやりに来た事だった。そのゲームの予約特典であるキャラクターのキーホルダーをボクはランドセルに付けていたから、哲矢が話しかけてきた。 2人が親しくなる始まりだった。 「お!松下くん、スゲーなっ コレ、オレの欲しいゲーム機のキャラじゃん!もしかして持ってんのぉー??」 「うん、持ってるよ! やりに来るぅ?!」 「おー、いく行くッ!!」 「じゃ、放課後な!」 童心の魂とはこの事なんだろう。 見ず知らずで初対面のこの日、話もしなかった子供同士は一つの遊び道具に、真剣に戯れる仔猫の様に警戒心を忘れて無我夢中の生き物となる時。目的は一つ、ゲーム機で遊びたいだけの事だった。 哲矢を招き、散々遊び、どうしてもクリア出来ないステージがあったが、もう日が暮れ始めて帰らなければならなくなって真剣で悔しそうなイキイキとした無邪気な哲矢の横顔を見て、 「なぁ、もう帰らないと母さんに怒られるぞ?それ、貸してやるからまた遊びに来いよ?」 「え、良いのか?」 「うん、もちろん!」 「おー、サンキュー! じゃ借りてくわーまた月曜日学校でな!」 「うん、気を付けて帰れよー もう外暗いから……」 ボクの家は学校から徒歩で5分ほどだったが、哲矢の家はボクん家から学校を挟んで歩いて30分はかかる。学校と山が沈んだ夕陽のバックライトに影絵を照らされる時間まで遅くなり、なんか悪い事をした気がした転入初日のこの日だった。 あの頃と今日が重なる2人が居る…… "哲矢は、あの日の事を覚えているかな?" あの頃より逞しくなった哲矢の背中を見送りながら……
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