第ニ章 - 窓辺の日 -

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第ニ章 - 窓辺の日 -

今日は待ちに待った休日、 とある場所へ出掛ける記念日だ。 苦手な早起きも気にしない、開店時間に合わせてさっさと身支度を済ませる。 ポンコツだが、愛車のメタリック黒塗りブルーバードを走らせ15分、隣町の家電店へ向かう。カーステのカセットテープを3曲も鳴らせば目的地へ到着した。 広告張り紙だらけのガラス扉のノブに手をやり、スーッと開けると正面右のエスカレーターに足を運ぶ、やがて2階の奥広まったフロアに出た。 「いらっしゃいませー」 フロア入り口には、安売りのワゴンセールの物がわんさか積んである。 今日はそんな安物をわざわざ見に来たんじゃないんだ、ごめんなーといそいそパソコン売り場へ向かった。 辿り着いたは良いが、どこから、何から見れば良いのかすらわからない。値札や説明が英語の専門用語と数値しか書いていない。 へ? 同じ客人からも店員から見ても、どこから見ても初パソコン売り場でパソコンデビューしたくて来ちゃいましたの客になってるボクは、哲矢の専門誌に載っていた同機種を思い出し探し出す。 雑誌も売り場も、共通している事は中身のハードとやらの数値が値段と比例している事だ。数が多いほど高い! 初パソコンに、いくら投資をすれば良いのか?"時代に乗り遅れるぞー"と言われたが、パソコンで一体何をやりたいのか?それすらわからず売り場で右往左往している。 とりあえず、アートや絵、ゲームが好きなだけだけど、映像や音楽も楽しみたいかな? それ全てを叶えるとなると、パソコン一台では済まなさそうだ、迷走しながら店内を徘徊中…… 「あ、そうだ! 哲矢に電話して聞いてみようー」 そう思った矢先、 「いらっしゃいませーこんにちわ。 どんなものをお求めでしょうか?」 右往左往のボクを見ていてたまらずか、セールスチャンスのカモと思ったのか店員が話しかけてきた。 「これこれかくかくしかじかで〜」 パソコンを買いに来た経緯を説明、予算を提示。 「では、こちらは如何でしょうか?」 と勧められたのは、日本製の最新機種。 価格30万円! やっぱこれくらいするよなー 「あっすいません、出直します……」 財布の中身と相談して、 この時はショップをあとにして家路に就いた。帰宅してからもう一度哲矢が置いていった専門誌を開く、無造作に手に取ったのは未だ読んでいなかった本だった。 「あれ?何だこれ」 その雑誌には付録のCD-ROMが付いている。 パソコン用のデータCDだからラジカセでは聴ける代物ではないことくらいはわかってる。雑誌にCD-ROMの説明があったのでどれどれ、ふむふむと暫く読んでみる。 「おー、そっか!パソコンってインターネットが出来て世界と繋がるのかー …… これだコレッ!」 どうやら欲しかったものが見つかった自意識が起動した。 知りたがり見たがりの欲しがり、哲矢と同じB型で同類のボクが覚醒した瞬間だ。 CD-ROMには対応したパソコンの詳細が載っている、これをメモしてまたショップへ向かう事にしたのだった…… 「いらっしゃいませー」 本日2度目のご来店。 1時間前と同じ場所、今度は脱初の足早真っしぐらにパソコン売り場へ。 三段の商品棚を上段の端から端まで、中段の端から端まで、下段の端から…… 「おっこれくらいのだ!」 価格20万円弱、予算許容範囲内。 「あ、すいませーん! これください、直ぐに持ち帰りたいんだけどいいですか?」 「ありがとうございます、駐車場までお運び致します。お会計はアチラでお願いします」 入荷したばかりの初心者向けパソコン、ドンピシャだった。初入店時は恥をかいたけど、目的達成!ご満悦です。周辺機器は必要限度付いていたけど、記録媒体のフロッピーディスク10枚入りハードケース入りとマウスパッドをオマケしてくれた、田舎の割に良心的なお店だ、流石フランチャイズ。 会計を済ませ、保証書を説明され段ボール入りの新品を台車に乗せ搬送用エレベーターで駐車場へ。 ゴロゴロゴローッ ガラガラーッ フォンッ…… サーッ トコトコトコ ゴロゴロゴローッ ガチャンッ キーッ…… 「お買い上げありがとうございました! またのお越しを心よりお待ちしております」 「はい、ありがとうー」 「あ、それとコレなんですが…… これからインターネットへ繋げるのにお役に立てると思いますのでお持ち帰りください、どうぞ!」 「あぁ、はい」 荷物を後部座席へ乗せ、帰り際にまたオマケを頂戴した。ショップの袋に入った小冊子やら新製品のカタログ資料、ネットへ繋げるためのプロバイダ契約の案内書類と各CD-ROMが数枚、大量荷物の買い物となった。 まぁ、値段が高額だからこれくらいのサービスは普通なのだろう、パソコンショップって。初パソコン入店のパソコンデビューの記念すべき日となったのだった。 ピーピーピーッ ピーピーピーッ…… 携帯電話が鳴った。 「あ、誰だろう? お、哲矢からかッ」 ピッ 「もしもーし…… うん、今外だぁー パソコンショップに居て これから帰るところー」 「そか、買ったのか?パソコン……」 「おぅ!初パソコンはインターネット用にしたぞー スペック?は真ん中位のだ」 「そかそか!よく選んだなぁー それを言おうと電話したんだ じゃあ、これからお前ん家向かうからー また後でなッ」 「おぅー その方が都合が良いー インターネットの繋げ方やらパソコンのセッティングなんかをご教授下さいなー 先生!」 「あぁいいよー じゃあなー」 「はいよー」 ピッ 「さぁいよいよだ!楽しみがまた増えたぞー それにしても、プロバイダって何だろう?」 何もわかってないボクを待っているのは、これまでに縁が無い事だらけとは予期もせず、心浮かれながらハンドルを握り帰路を急いだ。 「おーきたきた、手伝うよ!」 「おぅ、ありがとう」 一足早く哲矢はボクん家に着いていた、 買ってきた大量の荷物を2人で部屋まで運び入れた。 「よっしゃー さぁ始めるかぁー」 「取説は苦手だなー プラモみたいで……」 「まぁそう言うなって! 組み立てぇー 開始!」 手慣れた手付きで哲矢はパソコンを箱から開封して黙々とデスクへ並べて繋げていった。最も、4種類しかない大小の物を電源とコードへ繋ぐだけだった。 「ほぅー、これでスイッチオンか?」 「違うんだなー マー君、 "起動する"って言うんだよ?」 まぁ起動スイッチなんだからオンじゃね? と数日後に思った事だけど。 「画面が真っ暗じゃん、もう壊したか?」 「違うー 昭和レトロなモノクロテレビと同じ、温まるまで時間がかかるんだーって嘘だけど、もう少し待てよ」 「今考え中なんだな?これこら働くぞーって感じか?」 「まぁそんなところだな」 やがて、青と黒、英語と数字の動かない画面になり、何やら哲矢はキーボードを打ち始めた。 ボクはチンプンカンプンで暫く眺めてるだけでしかなかった。 ファンファンファンファーン ファーンファンファンファン…… 音楽が鳴り、窓のイラストが浮かんで明るい空色の画面になった。 「出来たーッ!コレで準備OKだ」 「お、インターネット出来るのか?」 「あ、それはまだコレからだ」 「まだかよー面倒くさいなぁパソコンって」 「そりゃあなぁー万能マシンだから色々と命令してあげないとその通りに動かないんだ、あともう少しだな」 哲矢の手際がいい反面、パソコンの設定が多すぎるのに帰宅してからセッティングを始めて時間を費やすこと4時間、外も段々と薄暗くなり部屋の窓に庭の木々の影絵が夕陽色のバックライトに照らされ虚しくゆらゆら揺れている……
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