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「あ、北野君、ちょっと」  阪木の呼びかけに、北野が一拍おいて手を止め、顔を上げた。 「何か?」 「総務の三島さんがね、ちょっと急ぎで来て欲しいんだって。お昼時で悪いんだけど、顔出してもらっていい?」 「三島さん?」 「ああ、そうだよね。僕も一緒に行くから」  総務の三島が分からない、といった様子の北野に、阪木は言いながら立ち上がる。北野も続いて席を立った。 「本社のこと、聞きたいみたいだよ」 「俺で分かりますかね」  そんなことを話しながら遠ざかる2人を見送った夏樹は、ごくりと唾を飲み込んだ。 (今だ!)  バッと隣を見ると、北野のパソコンの画面には、問い合わせフォームの後ろに、重なるようにメールボックスが立ち上がっていた。  急速に、心臓がばくばくと音を立てる。夏樹は、キャスター付きの椅子ごとコロコロとさり気なく北野の席にすり寄った。 「あー、えーっと……さっきの質問、北野さん何て回答してたかなぁー……ちょっと失礼……」  周りの人に疑われないように、ぶつぶつと言い訳を口にしつつ、思い切ってメールボックスの画面を手前に出す。送信一覧の中の自分の名前は、すぐ目についた。 (これだっ、──よしっ)  意を決して、クリックする。  送信内容がパッと画面に現れて、一瞬息を呑み込んだ。……文面は、短い。 (──杉本君について。ええと、なになに? 杉本君は協調性に優れ、チーム内でのムードメーカーで……)  ──杉本君について。  杉本君は協調性に優れ、チーム内でのムードメーカーであり、将来有望な人材。  杉本夏樹、年齢25歳、血液型B型、身長170センチ、体重は後日。趣味これといってなし。以上。 (……?)  夏樹は何度もその文面を読み直し、首を捻る。  ……思っていたのと、違う。  リストラ査定にしては、褒められているような気がする。そして、何故かプロフィールが付いている。身長は1センチ足りないが、だいたい合っている。 (……体重は、後日?)  体重は63キロだが伝えた方がいいのかと的外れな疑問に再度首を捻っていると、昼休憩に立つ人たちで周りがざわつき始め、夏樹は慌てて画面を元に戻したのだった。
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