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 チームリーダーの阪木は、温和で面倒見がいい。今年32歳で、結婚していて1人娘を溺愛している。入社3年間のコールセンター業務のあと、そのままコールセンター勤務を希望したと聞いている。 「やだなー、何もないですよ」  夏樹がへらりと笑ってみせると、阪木は怪訝そうな顔をした。 「……そうか? 昨日もお前、変だったろ」  確かに、昨日の午後は散々だった。  あんなことを聞いたあとで電話に集中などできる筈もなく、何度も質問を聞き返してクレーム寸前までいったりもした。阪木にも何度かフォローしてもらい、自身のメンタルの弱さを思い知ったのだった。 「すみません、ちょっとこのところ寝不足気味で……でも大丈夫なんで」 「そうか。何かあったら、遠慮なく言えよ。作業効率落ちてるからな。もうちょっとペース上げてくれると助かる」 「はい、すみません」  阪木のパソコンは、チームメンバーの作業状況が確認できるようになっている。誰が何件処理したか、電話だと何分通話しているか、また離席の有無も把握できるようになっている。  話し終わったところで北野が帰って来たところみると、自分に注意するタイミングを見計らっていたのだろう。  いつも細かなところに気を配ってくれる阪木に、夏樹は全幅の信頼を寄せている。だが、心配してくれる阪木に申し訳ないと思いつつも、口止めされている以上リストラの件を相談する訳にもいかない。  というか、万が一にも阪木も承知の事実だとすると、もう立ち直れない。 (……仕事に集中しよう)  悶々と悩むのはやめた筈だ、自分にそう言い聞かせて、次の機会を待ちながら仕事に集中する夏樹だった。  それから黙々と仕事をこなし、気が付くと昼休憩の時間になっていた。気持ちを切り替えて頑張ったお陰で、メールの回答件数もかなり取り返した。  夏樹は、ちらりと隣を見た。 (あれからトイレも行かなかったな……仕方ない)  姿勢良く、一定速度でキーボードを打つ北野に目をやる。まだしばらくは、席にいそうだ。  また午後に機会を窺おうと休憩に入ろうとした夏樹がデスクの上を片付けていると、パーティションの向こうから阪木が顔を覗かせた。
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