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 このオフィスビルには数社が混在して入っており、それぞれの社員が共用で利用できる社員食堂が6階にある。安価でメニューも豊富とあり、利用客は多い。夏樹もすっかり常連だ。  ちなみに夏樹の勤める会社は15階と16階で、コールセンターは15階にある。 「あー、やっぱり売り切れてる」  売り切れの札が立ったお目当てのA定食を諦めて、ラーメンと炒飯のセットを頼む。トレーを受け取り席を見渡すと、窓際のテーブル席で手を振る同期の桑原(くわはら)と目が合った。 「お疲れ! 遅かったな」 「おー、お疲れ。そうなんだよ、電話が長引いちゃってさ……お前それ、味噌カツじゃね?」  自身のトレーを置きながら、桑原の食べ終わった皿についた味噌を目敏く見つける。 「おう、旨かったぞ。やっぱカツは味噌だね」  くひひ、と笑う桑原は、夏樹のラーメンをちらりと見て勝ち誇った顔をした。 「くそー、楽しみにしてたのになぁ、味噌カツ」  ラーメンをすする夏樹の前で、桑原は食後のコーヒーに口をつけた。  同期の中でも、桑原とは特に気が合う。同じコールセンターでも現在インフォメーションに配属されている桑原と製品サポートの夏樹は仕事上で関わることはあまりないが、お昼はこうして社員食堂で一緒にとることが多かった。  夏樹の勤める株式会社サクラオフィスは、ビジネスソフトウェア製品の開発販売をしている会社で、現在在籍しているのはその支社だ。少し前に創業30周年を祝うパーティーが行われ、夏樹も出席している。  社の方針で入社して3年間はコールセンターに配属されることになっており、その内訳はインフォメーションに1年、製品サポートに連続して2年だ。夏樹は入社してまずインフォメーションに配属され今は製品サポートに就いているので、会計ソフトのコールセンターは2年目だが入社3年目に当たる。同期の桑原は夏樹の逆で、3年目の今がインフォメーション勤務だった。  そしてその後は、本人の希望と能力に応じて配属先が決められる。夏樹は持ち前の人当たりの良さを生かして営業を希望するつもりだし、桑原は総務を希望すると言っていた。
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